PCを自作したことがあれば、CPUクーラーには空冷と水冷があるという解説を一度は見たことがあるだろう。しかし、ほとんどの場合、実際に使うのは空冷クーラーだ。水冷クーラーについての解説はそれほど多くない。
本格的な水冷システムに触れる機会が少ないこともあり、始めるにはハードルが高いと思っている人も多いのではないだろうか。そこで、今回の連載では4回に渡って水冷システムについて解説する。確かに水冷は空冷と比べてハードルは高いが、基本を押さえて手順を踏めばそれほど恐いものではない。
初めて水冷に挑戦する場合は、入門用のキットを使うのがお薦め。最低限必要なパーツが入っているため、パーツ選びに失敗する心配がなく始めやすい。今回はThermaltake Technology(以降Thermaltakeと表記)の本格水冷キット「Pacific Gaming R240 D5 Water Cooling Kit」を使って解説する。
そもそも水冷って何?
まず、基本的なところからおさらいしよう。CPUクーラーはCPUが動作する際に発する熱を逃がし、CPUの温度を一定以下に維持するためのパーツだ。空冷と水冷はそれぞれ冷やし方に特徴がある。
空冷クーラーの仕組み
空冷の場合はヘッドと一体化したヒートシンクに直接熱を移し、ファンの風でヒートシンクから周囲の空気に熱を移す。温まった空気はケースファンの風などでPCケースの外に出ていく。CPUクーラー自体の構造が単純で扱いやすいのがメリットだ。
水冷クーラーの仕組み
水冷は液体を使って熱をラジエーターに伝え、ファンで風を当ててラジエーター自体を冷やす。CPUから熱を奪うヘッドと空冷のヒートシンクに相当するラジエーターが分離しており、その間を液体が流れて熱を運ぶのが特徴だ。分離しているという点が重要で、空冷よりも使えるスペースの制約が少なく、大きなラジエーターが使えるのがメリットとなる。
水冷にはさらに、「一体型水冷」または「簡易型水冷」などと呼ばれるタイプと、「本格水冷」と呼ばれるタイプに分けられる。
一体型水冷は組み立て済みの製品で、PCに取り付ければ使い始められる。構造は水冷だが、使い勝手は空冷とあまり変わらない。こちらは使ったことがある人もいるのではないだろうか。
本格水冷は冒頭の写真のように購入時点ではバラバラで、自分で組み立てる。高いカスタマイズ性が魅力で、やり方次第では非常に高い冷却性能が得られる。自分でパーツを選んで組み立てるという、自作PCらしさが好きな人もいるだろう。
もう一つメリットとしてあげられるのが、最近流行しているPCの「MOD(モッド、改造PCのこと)」と親和性が高いことだ。PC系のイベント会場で、派手に装飾したPCが展示されているのを見たことがある人も多いだろう。MODを施したPCのうち、かなりの割合が本格水冷のシステムを採用している。配管が装飾の一部になり、MODの雰囲気を盛り上げられるからだ。
水冷の構造を覚えよう
次に水冷システムの構造を解説する。水冷のシステムはヘッド、ラジエーター、リザーバータンク、ポンプ、チューブ、クーラント(冷却液)の要素で成り立っている。CPUの熱はヘッドを経由してクーラントに移動し、クーラントがチューブを通ってラジエーターに熱を運ぶ。ラジエーターで冷やされたクーラントはリザーバータンクに戻り、ポンプによってまたヘッドに向かう。この繰り返しでCPUを冷やす。ラジエーターにはファンを取り付けて冷やすのが一般的だが、ファンレスの製品もある。
高い拡張性が魅力
ヘッドやラジエーターは1個である必要はなく、増やして拡張できる。ラジエーターを増やせば冷却能力が高まり、ヘッドを増やせばグラフィックボードなど冷やす対象を増やせる。水の流れが弱いと感じたならポンプを増やしてもよい。PCケース内に全てのパーツを収めてもよいし、ラジエーターやリザーバータンクをPCケースの外に出すという方法もある。この自由度の高さが本格水冷の魅力だ。
一方、一体型水冷クーラーはポンプをヘッドに内蔵し、リザーバータンクをなくすなど簡略化している。ほとんどの製品はカスタマイズもできないため、本格水冷とはほぼ別物だ。ただ、大きなラジエーターを使った場合の冷却性能の高さと、本格水冷と比べて価格が安い点が魅力となる。
本格水冷と一体型水冷では、クーラントの扱い方も異なる。本格水冷の場合、クーラントは蒸発して時間と共に減っていくものだ。そのため、定期的にリザーバータンクの水位をチェックして不足しないように注意する必要がある。しかし、一体型は工場で密閉し、蒸発しにくい素材のチューブを使うなどの対策でクーラントの補充をしなくてもよくなっている。全く蒸発しないわけではないが、数年間は問題なく使える。
水冷システムの構成パーツを紹介
仕組みが分かったところで、具体的に使用するパーツを見ていこう。Pacific Gaming R240 D5 Water Cooling Kitに入っているパーツを使って解説する。
各パーツは様々なメーカーが単体でも販売しており、自由に組み合わせられるのも魅力の一つなのだが、その分初めての人にはハードルが高い。キットなら基本的なパーツをまとめて購入できるので、入門用としてはぴったりだ。ただし、今回のキットはクーラントが別売となっている点は注意。
ラジエーター
ラジエーターは熱を逃がすヒートシンクの役割を担っている。写真奥の口から入ったクーラントは手前側まで移動し、また奥に戻ってもう一方の口から出ていく。フィンの間にある支柱のようなものがクーラントが通る経路。ラジエーターはファンとセットで使うのが一般的だ。
ポンプとリザーバータンクの付属品
ポンプとリザーバータンクの付属品。縦置きと横置きのどちらでも対応できるよう、スタンドを2種類同梱している。写真左上にあるのは、固定した際に振動を抑えるスポンジシートだ。
チューブ
ヘッドやラジエーターなどのパーツをつなぐ。ホースと呼ぶ場合もあるが、意味は同じだ。ハードタイプとソフトタイプがあり、写真はソフトタイプ。ハードタイプは加工の難易度が高いので、ソフトタイプの方が初心者向きだ。
クーラント
冷却液のこと。ヘッドやラジエーターは金属製なので、水に反応して腐食してしまう。そのため水道水や精製水ではなく、水冷用クーラントを使うのがお薦め。Thermaltakeの「C1000」シリーズはエチレングリコールを混ぜてあり、腐食、凍結、錆などを抑制する効果がある。
24pin ATX Bridge Tool
電源ユニットをマザーボードにつながなくても電源オンにできる、地味だが重要な部品。24ピンメイン端子につなぎ、主電源を入れると電源ユニットが起動する。水漏れテストでポンプを動かす際に使う。
万全の準備で臨もう
キットなら各パーツが合わないというトラブルは起こらないが、各パーツの接合部は製品によって大きさが異なる場合がある。例えば、チューブは太さに種類がある。内径(チューブの内壁間の直径)と外径(チューブの端から端の直径)がフィッティングと合わなければ取り付けられない。メーカーが違っても寸法や規格が合っていれば理論上は使えるが、同じメーカーと規格でそろえるのが安全だ。
今回使用するフィッテイングのねじは「G1/4」、チューブは内径1/2インチ、外径3/4インチとなっている。内径は「ID(Inner Diameter)」、外径は「OD(Outer Diameter)」と表記される場合が多い。
「その他」の中に精製水をあげたのは、動作テストと洗浄に使うためだ。精製水は500mLで100~120円程度。薬局などで買えるので、1、2本用意しておこう。洗瓶やじょうごなど、注ぎやすくする器具も用意した方がよい。お薦めは洗瓶だ。クーラントなどを詰め替える手間はあるものの、注ぎ口をリザーバータンク内にまで入れられるためこぼす心配がほぼない。
クーラントは消耗品なので、余裕を見て多めに買っておこう。組んだ時には思ったほど使わなかったとしても、PCを使っているうちに補充の必要がでてくるため無駄にはならない。むしろ、予備がない状態でクーラントが不足し、チューブを気泡が流れるようになるとポンプが故障する恐れがあり危険だ。
水冷用の器具ではないが、作業する際はタオルや洗面器を用意しておこう。液体を扱うため、アクシデントには対応できるよう準備するのが鉄則だ。
次回はPCにこれらのパーツを組み込んでいく。
(文・写真=SPOOL)
※ 本記事は執筆時の情報に基づいており、販売が既に終了している製品や、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。