CPUの性能を引き出すには、CPUクーラーの高い冷却性能が必要だ。近年のCPUは温度が上がりやすくなっており、特に上位モデルでは簡単にサーマルスロッティング(処理性能を落として発熱を抑えること)が発生してしまう。設定で発熱を抑えることも可能だが、そのぶん性能が落ちてしまうのは避けられない。CPUクーラーの性能はこれまで以上に重要になっていると言えるだろう。
CPUクーラーには空冷式と水冷式があり、一般的に水冷式の方が冷却性能は高い。水冷式にはパーツ単位で購入し、自分で組み立てる「本格水冷クーラー」もあるが、今回は組み立て済みの「一体型(簡易)水冷クーラー」を紹介する。
一体型水冷クーラーを選ぶ際のポイントは、ラジエーターのサイズ、ファンの性能、デザインの3点がある。ラジエーターは原則として大きいほど冷却性能は高くなる。ファンは風量(CFM)と静圧(mm/H2O)の数値が高いほどよい。静圧はファンが空気を押し出す力のことで、高いほどラジエーターの細かい隙間により多くの風を通せるようになる。
一体型水冷クーラーはどの製品も構造がほぼ同じのため、見た目が似たものになりやすい。そこで各メーカーはデザインにも力を入れている。カラーバリエーションもそうだが、ヘッド部のカバーやファンにRGB LEDを搭載してライティングを楽しめるようになっているモデルが多い。
これらを踏まえて、自分にあった製品を探してほしい。
目次
240mmラジエーター採用のホワイトモデル
MasterLiquid 240L Core ARGB White(Cooler Master)
対応ソケット | Intel:LGA1700/1200/1151/1150/1155/1156 AMD:Socket AM5/AM4/AM3+/AM3/AM2+/AM2/FM2+/FM2/FM1 |
搭載ファン | 120mm(アドレサブルRGB LED搭載)×2 |
ファンの回転数 | 650~1750rpm(PWM対応) |
風圧 | 最大1.86mmH2O |
風量 | 最大71.93CFM |
騒音値 | 最大27.2dB(A) |
ポンプコネクター | 3ピン |
ポンプ騒音値 | 最大12dB(A) |
ラジエーターサイズ | 幅277×奥行き119.6×高さ27.2mm |
型番 | MLW-D24M-A18PZ-RW |
JANコード | 4719512137703 |
アスクコード | FN1928 |
ヘッド部の根本以外は真っ白な一体型水冷CPUクーラー。240mm級のラジエーターを採用しており、2基の120mmファンで冷却する。ファンにはアドレサブルRGB LEDを内蔵しており、鮮やかに光らせられる。新設計のポンプとフィンの表面積を増やしたというラジエーターを搭載し、冷却性能を強化している。
エントリー向けとなる「MasterLiquid Lite」シリーズということもあり、特殊な機能はないシンプルな構成だ。RGBコントローラーは付属しておらず、発光パターンを変更するにはマザーボードの機能を使う。アドレサブルRGB LED用の分岐ケーブルが付属しており、マザーボード側の端子は1個でまかなえる。
低負荷時にファンが止まる「ZERO RPM Mode」を搭載
iCUE H100i ELITE CAPELLIX XT White(CORSAIR)
対応ソケット | Intel:LGA2066/2011/1700/1200/1151/1150/1156 AMD:Socket AM5/AM4/sTR4 |
搭載ファン | 120mm(RGB LED搭載)×2 |
ファンの回転数 | 550~2100rpm(PWM対応) |
風圧 | 最大2.68mmH2O |
風量 | 最大65.57CFM |
騒音値 | 最大34.1dB(A) |
ポンプコネクター | iCUE COMMANDER CORE経由 |
ポンプ騒音値 | 非公開 |
ラジエーターサイズ | 幅277×奥行き120×高さ27mm |
型番 | CW-9060072-WW |
JANコード | 0840006683513 |
アスクコード | FN1851 |
こちらも240mm級のラジエーターを搭載したホワイトモデル。「CAPELLIX RGB LED」と呼ぶ高輝度LEDを採用しているのが特徴だ。CORSAIRは同社製のCPUクーラーや周辺機器などを一括管理する独自の「iCUEソフトウェア」を提供しており、CPU等の温度監視、ファンの回転数制御、LEDの発光パターン設定などは全てこのソフトから行える。
LEDとファンのコントローラー「iCUE COMMANDER CORE」が付属しているも特徴。アドレサブルRGB LED用とファン用の端子をそれぞれ6個備えており、PCケース内に同社製のLED付きファンを増やしてもまとめて管理できる。付属ファンは2基なので、あと4基追加可能だ。ここにケーブルを集約させる形になるので、裏面配線でケーブルを隠しやすいメリットもある。
ヘッド部のカバーはアクリル製プレートで、ねじを外せば簡単に交換できる。ヘッドを取り付けた際にロゴが横倒しになっていた場合にも付け直せるのは便利だ。柄違いの交換用プレートも2種類付属している。
ヘッドカバーに液晶ディスプレイを搭載
Kraken Elite 280 RGB White(NZXT)
対応ソケット | Intel:LGA2066/2011/1700/1200/1151/1150/1156 AMD:Socket AM5/AM4/sTR4 |
搭載ファン | 140mm(アドレサブルRGB LED搭載)×2 |
ファンの回転数 | 500~1500rpm(PWM対応) |
風圧 | 最大2.75mmH2O |
風量 | 最大99.68CFM |
騒音値 | 最大32.1dB(A) |
ポンプコネクター | SATA |
ポンプ騒音値 | 非公開 |
ラジエーターサイズ | 幅315×奥行き143×高さ30mm |
型番 | RL-KR28E-W1 |
JANコード | 0810074842266 |
アスクコード | FN1881 |
「Kraken Elite 280 RGB White」は280mm級のラジエーターを搭載した水冷CPUクーラー。ラジエーターに取り付けるファンが140mmと大きくなるため、そのぶん高い冷却性能が期待できる。本製品の特徴は、ヘッドカバーに液晶ディスプレイを搭載しており、センサー情報や画像等を表示できる点だ。CPUやクーラントの温度、画像やGIFアニメ等、好きなものを表示させてPCを演出できる。
組み立てはケーブル周りが特徴的で、ヘッド部につなぐ専用ケーブルに多くの機能を集約させている。ファンやポンプの電源だけでなく、マザーボードとの接続もこの専用ケーブルで行うため、配線が分かりやすくなっている。ファンのRGB LEDについては別途付属している「RGBコントローラー」に接続する。ファンの回転数を含め、設定はマザーボードの機能ではなく独自のCAMソフトウェアで行う。CAMソフトウェアではほかのNZXT製品の設定も可能だ。
強力な「TOUGHFAN」を採用
TOUGHLIQUID 280 ARGB Sync(Thermaltake)
対応ソケット | Intel:LGA2066/2011-3/2011/1700/1200/1151/1150/1155/1156 Socket AM5/AM4/AM3+/AM3/AM2+/AM2/FM2/FM1 |
搭載ファン | 140mm×2 |
ファンの回転数 | 500~2000rpm(PWM対応) |
風圧 | 最大3.54mmH2O |
風量 | 最大119.1CFM |
騒音値 | 最大33.2dB(A) |
ポンプコネクター | 3ピン |
ポンプ騒音値 | 非公開 |
ラジエーターサイズ | 幅314×奥行き140×高さ27mm |
型番 | CL-W320-PL14BL-A |
JANコード | 4713227527972 |
アスクコード | FN1584 |
「TOUGHLIQUID 280 ARGB Sync」は280mm級のラジエーターを採用した水冷CPUクーラーだ。特徴は風量、風圧ともに強力な140mmファン「TOUGHFAN 14」を付属している点。温まったクーラントを素早く冷却できる。ヘッドにはRGB LEDを搭載しており、マザーボードのRGBライティング機能で発光パターンを設定可能。マザーボードが対応していない場合でも、ヘッド部にあるボタンで発光モードや色、変化スピードを変更できる。
ヘッド部のLEDはケーブルが独立しており、光る機能が不要ならケーブルの本数を減らせる。その場合、ヘッドカバーは鏡面仕上げになっているため、そちらで見せ方を工夫することもできる。
360mm級の大型ラジエーターを搭載
Lumen S36 v2 RGB(Fractal Design)
対応ソケット | Intel:LGA2066/2011-3/2011/1366/1700/1200/1151/1150/1155/1156 Socket AM5/AM4/AM3+/AM3/AM2+/AM2/FM2+/FM2/FM1 |
搭載ファン | 120mm(アドレサブルRGB LED搭載)×3 |
ファンの回転数 | 500~2000rpm(PWM対応) |
風圧 | 最大2.34mmH2O |
風量 | 最大56CFM |
騒音値 | 最大33.2dB(A) |
ポンプコネクター | 3ピン |
ポンプ騒音値 | 最大22dB(A) |
ラジエーターサイズ | 幅392×奥行き120×高さ27mm |
型番 | FD-W-L1-S3612 |
JANコード | 4537694317634 |
アスクコード | HS1442 |
「Lumen S36 v2 RGB」は360mm級のラジエーターと3基の120mmファンを搭載したモデルだ。冷却部が大きいため、そのぶん冷却性能で有利になる。特徴は、ポンプをヘッド部ではなくラジエーター側に内蔵した点。ヘッド部に接続するケーブルが少なくなり、裏面配線でケーブルを隠しやすくなる。
大型ラジエーターの水冷クーラーでは使用するファンの数が増えるため、接続するケーブルも増えて配線をまとめることが難しくなる。本製品では、電源ケーブルがファンとポンプで4本、LED用ケーブルもファンとヘッド部で4本と、合計8本になる。これらを全部マザーボードにつなごうとすると、端子の数も足りなくなってしまう。そこで、本製品の付属ファンのケーブルはデイジーチェーンに対応している。ファンのケーブル同士をつなげられるため、マザーボードの端子はファン用とLED用それぞれ1個で済む。
ヘッド部の発光ギミックは独特。ヘッドカバーが半透明な樹脂でできており、光っていない時は黒一色のおとなしいデザインとなっている。一方、LEDが点灯するとカバー全体が淡く光るようになり、他の製品にはない雰囲気を出せる。ただし、LEDコントローラーは付属していないためマザーボードのライティング機能を利用する必要がある。
Core i7-13700KFでテスト
それでは、各モデルの冷却性能と静音性を見ていこう。ただ、冒頭で触れた通り、最新世代のCPUは全力で動作させると発熱が大きく、以前のように負荷時のCPU温度を60~70度に抑えるようなことは難しい。設定で発熱を抑えることは可能なので、今回の結果はあくまでこのテスト環境での数値である点は注意してほしい。
CPU | Intel Core i7-13700KF |
メモリー | DDR5-4800 16GB×2 |
マザーボード | ASRock Z790 LiveMixer |
SSD | CORSAIR MP510 960GB |
グラフィックボード | MSI GeForce RTX 3060 GAMING X 12G |
PCケース | なし |
電源ユニット | CORSAIR RM750(CP-9020195-JP) |
OS | Windows 11 Home(22H2) 64ビット |
テスト時の室温は25~27度。CPUの負荷には「CINEBENCH R23」(MAXON Computer)の「CPU(Multi Core)」テストを使用し、10分間の連続テストを実行した。CPU温度は「Extreme Tuning Utility(XTU)」(Intel)の「Package Temperature」の値を使用した。PCケースには収めず、テストはベンチマーク台で行った。
テストで利用したASRockの「Z790 LiveMixer」のBIOS設定には、「CPU Clooler Type」(利用するCPUクーラーの設定)という項目がある。この設定で「Long Duration Power Limit」の項目が変化し、負荷時に利用する電力を変えられる。ここでは実質制限なし(265W)となる「360~420mm Liquid Cooler」を選んだ。CPUの最大温度を決める「CPU Tj Max」は、CPUの仕様に合わせて100℃に設定している。
冷却性能をテスト
まず冷却性能を見てみよう。下のグラフに、システムがアイドル時のCPU温度と負荷時のCPU温度の平均をまとめた。いずれもテスト中に100度に達した瞬間があるため、最大値は省略している。
いずれのモデルも高い冷却性能を備えているものの、平均CPU温度は90度を超えた。Pコアの平均動作クロックは5.00~5.07GHzとなり、CINEBENCH R23の負荷テストの最後に表示されるスコアも約1.3%と小さい差の間に収まった。CPUの性能を引き出すことはできていると言えるだろう。その中で、最も結果が良かった製品は「TOUGHLIQUID 280 ARGB Sync」。スペック表からも分かるように付属ファンの風量、風圧の数値が高く、有利に働いたようだ。
騒音値をテスト
大抵の場合、CPUクーラーのファンはマザーボードのPWM制御で回転数を変化させている。そのため、CPU温度を抑えられればファンの回転数も下がり、騒音値を抑えられる。しかし、今回のテストではCPU温度が90度を超えていることもあり、全てのモデルが負荷時に100%の回転数で動作していた。そのため、事実上各モデルの最大騒音値の比較となっている。また、今回のテストはベンチマーク台で実施しており、PCケースに収めた場合はもう少し動作音は小さくなるはずだ。
計測には佐藤商事の騒音計「SD-23SD」を使用し、ベンチマーク台とほぼ同じ高さ、約50cmの距離に設置した。
アイドル時はいずれのモデルも30~32dB(A)と静か。PCの隣に立っていても動作音はほとんど聞こえないほどだ。負荷時の動作音がひときわ大きかったのは「TOUGHLIQUID 280 ARGB Sync」。静かだったのは「Lumen S36 v2 RGB」だ。
騒音値は各モデルで結果がばらけた。最も静かだったのは「Lumen S36 v2 RGB」。120mmファンを3基搭載しているため静音性の面では不利なはずだが、今回の5製品の中で最も静かだった。冷却性能でラジエーターサイズの小さいモデルと差がつかなかったのは、付属ファンが静音志向のためだった可能性がある。
反対に動作音が大きかったのは「TOUGHLIQUID 280 ARGB Sync」。これは冷却性能も一番高かったため納得の結果だ。少し離れていてもはっきり音が聞こえ、目を離していてもファンの音の変化でテストが終わったことが分かるほどだった。
ファンの動作音は、BIOS(UEFI)の設定等で回転数を落とすことで下げられる。冷却性能は若干落ちるが、動作音が気になるようであれば検討すると良いだろう。
水冷クーラーは見た目も選ぶポイント
水冷CPUクーラーを5製品見てきた。第13世代Coreシリーズを使うと、水冷CPUクーラーでもCPU温度は90度以上まで上がってしまう。性能を引き出すには空冷CPUクーラーでは厳しいことが分かるだろう。
水冷CPUクーラーの魅力は冷却性能だけではない。RGB LEDを内蔵したファンによるライティングやヘッド部の装飾、液晶ディスプレイによる情報表示など、大型パーツならではの視覚的な楽しみ方もある。
暑くなる時期はCPU温度も上がりやすい。この夏、水冷CPUクーラーに挑戦してみてはいかがだろうか。
(文・写真=SPOOL)
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