CPUクーラーはCPUをオーバーヒートから守る大切なパーツだ。しかし、近年CPUクーラーは機能面だけでなく見た目も重要になってきている。
CPUの高性能化に伴って発熱が増え続けていた時期は冷却性能を前面に押し出した製品が多かった。しかし近年CPUメーカーは発熱を減らすよう努力しており、多くの場合大きなCPUクーラーは必要なくなっている。そこで、MODなどPCのデコレーションが流行していることもあり、CPUクーラーのメーカーは色や造形、光り方などを工夫して製品の魅力を高めている。
一方、冷却性能が重要でないかと言えば、そんなことはない。ハイエンドCPUの発熱量は変わらず高く、CPUクーラーが付属していないモデルもある。また、夏場は気温、室温が上がるため、CPUの温度も冬より高くなりがちだ。ファンの回転数がCPU温度に連動していると、夏になるとうるさくなるといった現象が起こる場合もある。CPU温度が高いと自動オーバークロック機能があまり効かなくなるなど、性能に影響する可能性もある。性能の高いCPUクーラーを使うことは、快適にPCを使う上で重要だと言える。
今回は空冷のCPUクーラーを3製品紹介する。テストに使用した環境がAMDのため、写真はAMD製CPU用の固定具を使用している。
目次
マザーボードと同期可能なRGB LEDを搭載
Riing Silent 12 RGB Sync Edition(Thermaltake Technology)
対応ソケット | Intel:LGA2066/2011-3/2011/1366/1151/1150/1156/1155/775 AMD:Socket FM2+/FM2/FM1/AM4/AM3+/AM3/AM2+/AM2 |
搭載ファン | 12cm(RGB LED搭載) |
ファンの回転数 | 500~1500rpm(PWM、Low-Noise Cable使用時は300~700rpm) |
騒音値 | 22dB(A)、Low-Noise Cable使用時は13dB(A) |
ヒートパイプ | 直径6mm×4 |
サイズ | 幅140×奥行き74×高さ159mm(付属ファン含む) |
重量 | 825g |
Riing Silent 12 RGB Sync Edition(以下Riing Silent 12)は4本のヒートパイプを搭載したタワー型クーラーだ。ヒートシンク部が細身なので、ファンを付けてもメモリーやVRM用ヒートシンクなどと干渉しにくい設計になっている。
特徴は付属ファンがRGB LEDを搭載しており、マザーボードと連携して光る色を256色から選べる点。ASRock、MSI、ASUSTeK Computer、GIGABYTE TECHNOLOGY、BIOSTARの5社のRGBイルミネーション機能に対応している。各社のソフトを使うと、色だけでなくフェードインとフェードアウトを繰り返す、次々と色が変化するといった発光パターンも変更できる。マザーボードと光り方をそろえられるので、PCケース内のイルミネーションにこだわりたい人にもぴったりだ。
取り付けは付属のリテンションを組み立てそこにヒートシンクをねじ留めする形。ヒートシンクのベース部分を押さえるプレートにねじが固定されており、取り付けやすい。ファン固定用のクリップは特徴的。あらかじめヒートシンクに取り付けておき、折り曲げた角をファンのねじ穴に引っ掛けるようにして留める。ファンを着脱する度にクリップを付け直さなくて済むのは便利だ。
LEDの設定画面。今回はASRockのソフト「Polychrome RGB」を使った。色と発光パターンを変更できる。「APPLY ALL」を選択するとマザーボードなど他パーツのLEDと同じ光り方に一括して設定可能だ。
人気シリーズのブラックエディション
Hyper 212 Black Edition(Cooler Master Technology)
対応ソケット | Intel:LGA2066/2011-3/2011/1366/1151/1150/1156/1155 AMD:Socket FM2+/FM2/FM1/AM4/AM3+/AM3/AM2+/AM2 |
搭載ファン | 12cm |
ファンの回転数 | 650~2000rpm(PWM) |
騒音値 | 6.5~26dB(A) |
ヒートパイプ | 直径6mm(実測)×4 |
サイズ | 幅123×奥行き77×高さ158.8mm(付属ファン含む) |
重量 | 713g(実測) |
HyperシリーズはCooler Master Technologyの人気モデル。Hyper 212 Black Editionはフィンにニッケルめっき、トップカバーにアルマイト加工を施し、黒一色で統一した。ねじやファン固定用クリップまで黒くめっきしてあり、PCケース内を落ち着いた雰囲気でまとめたい時にちょうどよい。ファンもLEDを搭載しておらず、光らせずにPCをデコレーションしたい人にも良い選択になる。
Hyper 212 Black Editionのヒートシンクはヒートパイプとフィンブロックの組み合わせというタワータイプではオーソドックスな構成。フィンには放熱性を高めるというニッケルめっきを施しており、見た目だけでなく冷却性能にも配慮した設計になっている。付属するファンは1個だけだが、増設用の部品が付属しているのもポイントだ。
取り付け方法にも工夫があり、ヒートシンク側にねじを固定してからマザーボードに取り付ける。取り付けの際にねじを落としてしまうといった事故を防げるのは便利だ。ねじ留め自体も4ヶ所でしっかり固定できる。
TDP280Wまで対応する巨大CPUクーラー
ASSASSIN III(Deepcool Industries)
対応ソケット | Intel:LGA2066/2011-3/2011/1366/1151/1150/1156/1155 AMD:Socket FM2+/FM2/FM1/AM4/AM3+/AM3/AM2+/AM2 |
搭載ファン | 14cm×2 |
ファンの回転数 | 400~1400rpm(PWM、Low-Speed Adapter使用時は450~1000rpm) |
騒音値 | 最大34.2dB(A)、Low-Speed Adapter使用時は最大26.8dB(A) |
ヒートパイプ | 直径6mm×7 |
サイズ | 幅161×奥行き140×高さ165mm(付属ファン含む) |
重量 | 1464g |
ASSASSIN IIIは大型のフィンブロックを2個備えた巨大クーラーだ。TDP280Wまで対応可能とうたっており、ハイエンドCPUやオーバークロックでの利用を想定したモデルと言える。口径の大きい14cmファンを採用しており、回転数を抑えることで静音性と冷却性能を両立させている。
リテンションのほか、エンブレムとファン用電源分岐ケーブル、ファンの回転数を落とすLow-Speed Adapter(LSP)が付属する。フィンブロックの間を通してねじ留めする必要があるため、長いドライバーも付属している。ファンのフレームの形状が特殊なため、クリップは通常の14cm、12cmファンでは使えない。
大型CPUクーラーは周囲のパーツと干渉してしまうことが多く、組み合わせるマザーボードやPCケースもよく考える必要がある。ASSASSIN IIIも高さが165mmと高く、ファンの取り付け位置によってはさらに高くなる。余裕を持つには高さ18cmまで対応したPCケースを選ぶと良いだろう。一方で、CPUソケット周辺の干渉については配慮されている。特に干渉しやすいフィンブロック下部にフィンのない部分を作り、周囲のパーツにぶつからないようになっている。ファン用のクリップも着脱しやすく、微調整がやりやすい。
付属品にドライバーがあることや、ヒートシンク部を固定するねじがヒートシンクの根本にあらかじめ固定されていることなど、組み立て安さにも妥協がない。手順は多いもののスムーズに作業できて、手間がかかるように感じなかった。
冷却性能と静音性をテスト
それでは、各モデルの冷却性能を見ていこう。テスト環境は以下の通り。AMD Ryzen 7 2700XはCPUクーラーが付属しているため、参考用にこちらもテストしている。CPUの温度は室温やPCケース内のエアフローなどでも変化する。そのため、テスト結果はあくまで参考値としてとらえてほしい。
CPU | AMD Ryzen 7 2700X |
メモリー | DDR4-2400 4GB×2 |
マザーボード | ASRock X470 TAICHI |
SSD | Micron Technology 1100 250GB |
グラフィックボード | MSI GeForce GTX 1060 GAMING X 3G |
PCケース | Thermaltake Technology VIEW 31 TG |
電源ユニット | Thermaltake Technology TOUGHPOWER GRAND RGB 650W |
OS | Windows 10 Home(May 2019 Update) 64ビット |
室温は27度。CPUの負荷には「OCCT 5.3.1」の「CPU:OCCT」を使用し、約10分間実行した時点のCPU温度を採用した。CPU温度は「HWMonitor 1.40」の「Package」の値を使った。PCケースのファンは背面のみ動作させた。騒音値の計測は、側面パネルを開けてCPUクーラーから20cmの位置に佐藤商事の騒音計「SD-23SD」を置いて計測した。ケースファンは全て停止させた。暗騒音は30.8dB(A)。マザーボードのUEFIのファン動作モードは標準の「Standard Mode」を使用している。
冷却性能
★★Riing Silent 12 RGB Sync Edition
★★Hyper 212 Black Edition
★★★ASSASSIN III
「CPU:OCCT」のテストはかなり負荷の高いテストだが、CPU付属クーラーも問題なく完走している。ただ、今回テストしたモデルはいずれも付属クーラーよりもCPU温度を低く抑えられた。
やはり目を引くのはASSASSIN IIIだ。CPU付属クーラーよりもCPU温度を10度以上低く抑えられた。ファンの回転数を落とすケーブルを使っても1度しか上がっていないのは、もともと約930rpmと低い回転数で動作していたため、約810rpmに下がっただけで下がり幅が小さかったのが理由だ。
Riing Silent 12はCPU付属クーラーに近い性能だった。こちらはファンの回転数を落とすケーブルを使うとCPU温度は5度上がり、冷却性能への影響が大きかった。回転数が負荷時に約1400rpmから800rpmへと大幅に落ちているのが原因だろう。Hyper 212 Black Editionは、ヒートシンクの大きさはRiing Silent 12とほぼ同じなのにも関わらず冷却性能は高かった。全体へのニッケルめっきが効いているのだろうか。
騒音値
★★★Riing Silent 12 RGB Sync Edition
★★★Hyper 212 Black Edition
★★★ASSASSIN III
もう一つのCPUクーラーの重要な指標に静音性がある。ただ、最近はほとんどのモデルが静音性を売りにしており、目立った差はないことが多い。今回テストした3製品もPCケースの側面パネルを閉めるとほぼ何も聞こえなくなってしまうため、製品間の差を示すためにあえて開けた状態でテストしている。
テスト結果は、どのモデルもCPU付属クーラーより騒音値を抑えられた。特に目立ったのはRiing Silent 12の付属ケーブルを使った場合。ほぼ暗騒音(何も動作させていない時の騒音値)と同じだった。CPUに負荷をかけてもファンの回転数は上がらず、静音性では抜きん出ている。ただ、付属ケーブルを使わない場合は負荷時に40.6dB(A)と3製品の中で最も騒音値が高かった。ケーブルを使うとCPU温度は上がるため、どちらが良いかは好みだろう。
Hyper 212 Black EditionとASSASSIN IIIは共に負荷時に35dB(A)前後となった。Hyper 212 Black Editionはファンの回転数を落とすケーブルが付属していないが、そのままでも十分静かだ。ASSASSIN IIIの付属ファンは最大1400rpmで動作するが、今回テストした範囲では1000rpmを超えることはなかった。冷却性能が高いとファンの回転数を上げる必要がなく、その分静かにできるのはメリットだ。
性能と見た目、重視したい方で選ぶ
冷却性能を見れば、ASSASSIN IIIが頭一つ抜けている。見た目も2個のフィンブロックはインパクト抜群だ。ただ、ファンの交換が難しいためLEDイルミネーションは使いにくい。手軽に光る環境を作りたいならRiing Silent 12が良いだろう。Hyper 212 Black Editionはそのまま使っても良いし、ファンの交換が簡単なのでLED付きにカスタマイズすることも可能。CPUクーラーに求めることによってどのモデルが良いかは変わってくるだろう。価格もそれぞれ異なるので、自分に合った1台を見つけてほしい。
水冷CPUクーラーのレビュー記事も公開中です。
レビュー記事を見る(文・写真=SPOOL)
※ 本記事は執筆時の情報に基づいており、販売が既に終了している製品や、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。