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ローカルLLMとは?生成AI導入企業が注目する理由とメリット・デメリット・活用事例を徹底解説!

SLMやRAGとの違い、活用事例やメリットを徹底解説!セキュリティ強化やコスト削減を実現する最新技術を押さえよう

ローカルLLMとは?生成AI導入企業が注目する理由とメリット・デメリット・活用事例を徹底解説!

生成AIの進化が止まらない中、多くの企業が次の一手を模索しています。その中で注目を集めているのが「ローカルLLM(Local Large Language Model)」です。

クラウド型LLMとは異なり、ローカルLLMは自社サーバーやデスクトップワークステーションで運用できるため、セキュリティ面での強みや独自の活用可能性から、多くの企業にとって魅力的な選択肢となりつつあります。

本記事では、ローカルLLMの基礎知識から、クラウド型AIやそのほかのモデルとの違い、注目される背景、メリット・デメリット、そして具体的な活用事例までを徹底解説していきます。

セキュリティを強化しながら、AIの可能性を最大限に引き出す方法を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。

ローカルLLM(Local Large Language Model)とは?

ローカルLLM(Local Large Language Model)とは?

生成AIのChatGPTが2022年11月末にリリースされて以降、世間ではLLM(大規模言語モデル)に関するニュースをよく耳にするようになりました。

LLMとは、膨大なデータセットを使って自然言語のパターンや関係性を学習したAIモデルのことです。簡単にいえば、生成AIの「頭脳」に当たります。

今までのLLMは、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiのように、インターネット接続を前提としたものが一般的でした。しかし最近では、オンプレミス(自社サーバーやワークステーション等)のローカル環境で運用できるローカルLLM(Local Large Language Model)が注目されつつあります。

ここではまず、ローカルLLMとはどういうものなのか、分かりやすく解説していきます。

関連記事:生成AIとは?AIやLLMとの違いから4つの種類、有名サービス7選と活用事例を紹介!

LLMをローカル環境で使える形態のこと

ローカルLLM(Local Large Language Model)とは、LLM(大規模言語モデル)をより扱いやすいローカル環境で運用できるようにした形態です。

生成AIのみならず、現代のAI(人工知能)にとってLLMは必須ともいえますが、従来のLLMは大規模な計算資源やインターネット接続を必要とするため、プライバシー保護やコストの観点で課題がありました。

しかし、ローカルLLMはオンプレミス環境やオフライン環境、つまり自社サーバーやPCでも稼働できるのです。これにより、企業や個人が自分の環境に最適化されたLLMを利用できるようになっています。

加えて、ローカルLLMではファインチューニング(モデルの再学習)が可能です。

そのため、業界固有のデータや特定のユースケースに特化したモデルを効率的に構築できます。例えば、医療分野や金融分野における高度な専門知識が必要なタスクにも適用可能です。

個別ニーズに応じた柔軟性を持つだけでなく、データセキュリティの向上や依存度の低減といったメリットもあるため、ローカルLLMの登場でAI活用の選択肢がさらに広がりつつあります。

2025年1月時点の主なローカルLLM一覧

では、現在のローカルLLMにはどのようなものがあるのでしょうか?2025年1月時点での主なローカルLLMは以下のとおりです。

モデル名 開発元 パラメータ数 特徴
Mistral-Nemo-Japanese-Instruct-2408 サイバーエージェント
(基盤:Mistral、NVIDIA)
約122億 日本語特化のチューニングが施された高性能モデル。大規模コンテキストウィンドウ(最大128,000トークン)対応。
Llama-3-ELYZA-JP-8B ELYZA
(基盤:Meta Llama 3)
約80億 日本語特化のファインチューニング済み。軽量ながら高い日本語処理能力を発揮。
Llama-3.1-Swallow-8B-Instruct-v0.2 東京工業大学+産業技術総合研究所
(基盤:Meta Llama 3.1)
約80億 日本語対応強化。長文コンテキスト処理(最大32,768トークン)。指示に基づいた応答生成が可能。
Qwen2.5-7B-Instruct Alibaba 約70億 日本語対応。長文処理に強く、セキュアなローカル環境で動作可能。ただし、中国語混在の可能性あり。
Gemma-2-2b-jpn-it Google 約20億 日本語特化の軽量モデル。2Bパラメータで効率的に動作。小規模なローカル環境で利用可能。

なお、現在のローカルLLMは正式な製品としてリリースされているわけではなく、Hugging FaceやGitHubなどのオープンコミュニティにソースやデータセットが公開されているだけです。

したがって、自社製品に組み込むためにはかなりの専門知識が必要になってきます。

SLM(小規模言語モデル)との違い

ローカルLLMは、捉え方によってはより小規模になったLLMとして解釈できます。

SLM(小規模言語モデル)と同義のようにも思えますが、ローカルLLMとSLMでは以下の点で異なります。

ローカルLLM SLM(小規模言語モデル)
規模 数十億~数千億パラメータ 数百万~数十億パラメータ
性能 高度な文脈理解や多分野対応が可能 特定のタスクに最適化、汎用性は低い
リソース要件 高性能なハードウェアが必要(GPU、大量のRAMなど) 軽量で低スペック環境でも動作可能
適用範囲 汎用的な自然言語処理タスク(生成、翻訳、要約、質問応答など) 特定のタスクや軽量化が必要な場面(FAQ回答、音声アシスタントなど)
実行速度 大規模処理のため遅い場合がある 軽量な処理のため高速
使用環境 ワークステーションやサーバー環境 スマートフォン、エッジデバイス、組み込みシステムなど
データプライバシー ローカル環境で大規模処理を行うためプライバシーを重視した利用が可能 ローカルまたはエッジでの処理が中心で、軽量な設計

このように、ローカルLLMは高性能を必要とする多用途向けに設計されており、SLMは効率性を重視した特化型の軽量モデルです。

厳密には違いますが、分かりやすく言い換えるとするならば、ローカルLLMはLLMとSLMの中間に位置するLLMになります。

RAG(検索拡張生成)との違い

LLMは非常に進化が早いため、次々と新しい概念や考え方へと移り変わります。その流れの中で登場したのが「RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)」という技術です。

RAGとは、簡単にいえば、LLMに外部データの検索機能を組み合わせて、より正確で関連性の高い回答を生成する手法です。

モデルが既存の内部知識だけでなく、外部の最新情報や特定のデータベースにアクセスし、それを活用して回答を生成します。一方で、ローカルLLMは完全にローカル環境で動作するLLMを指します。

つまり、RAGは生成AIにより精度の高い回答をさせるための「手法」であり、ローカルLLMはよりパーソナライズされた「言語モデル」です。

クラウド型LLMとの違い

LLMは規模感や性能、用途によって種類分けされるのが一般的で、クラウド型LLMもその一つです。

そもそもLLMはクラウドベースで運用するのが普通なので、あえて「クラウド型」と付ける必要はありません。

しかし、ローカルLLMのようなインターネット環境に接続せずに運用するLLMが登場したことで、区別の必要性が発生しました。そのため、昨今では「クラウド型LLM」と呼称することも増えてきました。

クラウド型LLMとローカルLLMの違いは以下のとおりです。

クラウド型LLM ローカルLLM
運用環境 クラウドサーバー上で動作し、インターネットを通じて利用する ローカルのワークステーションやオンプレミスサーバーで動作し、完全にオフラインで利用可能
接続要件 インターネット接続が必須 インターネット接続不要
データの処理 入力データがクラウド上のサーバーに送信され、処理が行われる データはローカル環境で処理され、外部に送信されない
コスト 使用量に応じた従量課金が一般的 一度導入すれば基本的に運用コストは低い(電力やハードウェアの維持費のみ)
プライバシー データがクラウドに送信されるため、セキュリティ対策が必要 データがローカル環境内で完結するため、プライバシー保護に優れる
性能と応答速度 高性能なサーバーを利用するため、応答速度が速く、大規模モデルでも利用可能 ハードウェア性能に依存し、大規模モデルでは応答速度が低下する場合がある

したがって、クラウド型LLMとは一般的なLLMを指す用語であり、AIの用途やニーズが多様化したことによって生まれた言葉です。

ローカルLLMが日本企業で注目される3つの背景

ChatGPTをはじめとする生成AIサービスが急速に普及し始めた2023年前後から、オープンソースのLLMが次々と登場しました。この頃から「ローカルLLM」という言葉も世間で頻繁に見かけるようになりました。

ではなぜ、ローカルLLMが急激に注目されるようになったのでしょうか。

結論からいうと、日本企業にはLLMを活用したくてもできないジレンマがあったからです。

ここでは、ローカルLLMが日本企業で注目されるようになった背景を3つ解説していきます。

関連記事:LLMを分かりやすく解説!簡単な仕組み・種類・活用事例を紹介!

①セキュリティの問題で生成AIを導入できない企業が多かった

生成AIはビジネスを根幹から変える可能性を秘めていたため、ChatGPTがリリースされた翌年の2023年は全世界的に生成AIがトレンドになりました。

しかし、LLMは企業が抱えるセキュリティやプライバシーに関する懸念から、導入が難しい状況が続いています。

特に日本企業では、データセキュリティや個人情報保護に対する意識が非常に高く、クラウド型AIを活用する際のリスクがしばしば議論されてきました。

しかしながら、ローカルLLMは企業の内部サーバー上で動作するため、外部サーバーにデータを送信する必要がありません。この特性により、機密性の高い業務を扱う金融機関や医療機関などで特に高い関心を集めています。

②人材不足、働き方改革の解決策としてAI導入が急務になっている

日本は少子高齢化による深刻な人材不足に悩まされており、今後も解決の兆しは見えていません。また、新型コロナによる社会構造の変化により、働き方に対する考え方も大きく変わってしまいました。

しかし、これらの問題は根本的な解決が難しく、企業にとっては持続可能な成長を維持するための新しい方法を模索することが不可欠となっています。

そこで注目されたのがAI技術、特にローカルLLMの導入です。ローカルLLMは、定型業務の効率化や自動化を可能にします。

例えば、膨大な書類作成やデータ入力といった繰り返しの多い業務をAIが処理することで、社員はよりクリエイティブで付加価値の高い業務に集中できるようになります。

さらに、ローカルLLMの導入は大企業だけでなく中小企業にとっても現実的な選択肢です。

中小企業では、予算や人材の制約から大規模なシステム導入が難しい場合が多いですが、ローカルLLMは比較的低コストで運用でき、企業規模を問わず導入が可能です。

つまり、AI技術が日本経済全体の生産性を底上げする可能性を秘めているため、ローカルLLMに注目が集まりました。

③日本語特化型LLMが登場し始めた

日本語特化型LLMが登場したことも、ローカルLLMが注目されるようになった理由の一つです。

生成AIは非常に画期的な技術ですが、プラットフォーマーのほとんどが海外、特にアメリカを代表とする英語圏の国々です。

そのため、英語をベースとしたデータセットが圧倒的に多く、日本語で利用しようとすると不自然な表現が目立ち、パフォーマンスが安定しないことが課題となっていました。

特に日本語は、英語と比較して文法構造や語順が複雑で、敬語や婉曲表現など、独自の文化的ニュアンスが多く含まれます。このため、「日本企業で導入するにはまだ早い」との意見も多かったのです。

しかし、最近では日本語特化型LLMがいくつか登場しており、状況が変わりつつあります。

モデル名 開発元 特徴 活用分野・用途
Llama-3-ELYZA-JP ELYZA 日本語特化型、高い生成能力 自然言語処理、業務サポート
tsuzumi NTT 軽量モデル、日本語・英語対応 データ解析、翻訳
cotomi NEC 日本語特化型、130億パラメータ ビジネス向けAI、情報整理
LHTM-2 株式会社オルツ 日本語特化型、翻訳・要約・対話対応 自然言語生成、業務自動化
Rakuten AI 7B 楽天グループ 日本語最適化、オープンソースモデル 中小企業向け、文章生成
ao-Karasu 東京大学発Lightblue 日本語特化型、高ベンチマーク評価 研究開発、対話システム
Youri 7B rinna株式会社 日本語学習を行った高性能モデル カスタマーサポート、コンテンツ生成
CyberAgentLM サイバーエージェント 70億パラメータ、AWS対応 マーケティング、広告生成

このように、日本企業が開発元のLLMも多く登場してきており、日本人でも扱いやすくなったことでローカルLLMに注目が集まったのです。

AIを使いこなせる人が求められる時代へ

生成AIが登場し始めてから、「AIが人間の仕事を奪う」という議論も目立ち始めました。すでに海外では規制の動きも多く見られており、さながら18世紀後半の産業革命の様相を呈しています。

この議論にいまだ結論は出ていませんが、過去から学ぶならばAIは人間の仕事を奪うのではなく、むしろ人間の仕事の幅を広げるはずです。

例えば、先述した産業革命時には機械の導入が手作業を代替し、多くの人々が職を失うことが懸念されました。しかし実際には、機械の普及が新たな産業や職種を生み出し、雇用機会が拡大しています。

同様に、AIの進化によってルーティン業務は自動化される一方で、AIを活用して創造的な業務を行う新たな職種が誕生することになるでしょう。

つまり、AIを単なるツールとして使うのではなく、AIと協働する形で価値を生み出せる人材こそが、今後のビジネスにおいてもっとも重要になるかもしれません。

ローカルLLMのメリット3つ

ここまで、ローカルLLMの基本的な概要と注目されるようになった背景について解説してきました。

しかし、具体的なメリットがいまいちイメージできない方も多いかもしれません。そこでここからは、ローカルLLMのメリットを3つ分かりやすく解説していきます。

①セキュリティが向上する

1つ目のメリットが、セキュリティリスクを緩和できる点です。

従来のLLMはクラウドベースで動作することが一般的であり、データが外部サーバーに蓄積されてAIのトレーニングに利用されるおそれが指摘されていました。

実際に、2023年にはサムスン電子の従業員が業務中にChatGPTを使用し、機密情報を入力した結果、データが外部に漏洩する事例が報告されています。

一方、ローカルLLMは企業内のサーバーやワークステーション等のオンプレミス環境で動作するため、データを外部に送信する必要がありません。

この仕組みにより、企業は機密情報を安全に保護しつつ、AIの力を業務に活用することができます。

加えて、ローカル環境での運用により、データ処理やトレーニングの過程を完全に制御できるため、コンプライアンスやデータ監査の要件にも対応しやすくなります。

このように、ローカルLLMはビジネス上のセキュリティリスクをクリアできる可能性が高いのです。

②独自データを活用して差別化されたAIモデルを構築できる

2つ目のメリットは、企業が保有する独自データを活用して、差別化されたAIモデルを構築できる点です。

従来のクラウドベースLLMでは、提供元が用意した一般的なデータセットをもとにトレーニングされたモデル(例:GPT-4、Gemini)が使用されます。

そのため、特定の業界や企業のニーズに完全に適合しているわけではなく、汎用的な回答や処理能力にとどまる場合が多く見られました。

一方、ローカルLLMでは、企業が自社内で保有する独自のデータを利用してモデルをトレーニングまたは微調整(ファインチューニング)することが可能です。

例えば、小売業界では顧客購買データを活用してより精度の高い需要予測を実現したり、医療業界では病院の症例データをもとに診断支援AIを構築したりすることができます。

このように、特定の業務や課題に特化したモデルを構築することで、他社との差別化を図るだけでなく、業務効率の大幅な向上や顧客満足度の向上を実現できます。また、独自データを使用することで、データの品質や正確性を確保しやすくなるという点も、大きな利点です。

したがって、業界独自の専門知識やノウハウをAIモデルに組み込むことで、企業は競争優位性を高めることができるのです。

③コストパフォーマンスが高い

3つ目のメリットは、ローカルLLMがクラウド型LLMに比べてコストパフォーマンスに優れている点です。

クラウドベースLLMを利用する場合、使用料はモデルの処理能力や利用頻度に応じて増加します。特に、大規模なデータ処理や継続的な利用が必要な場合、ランニングコストが非常に高額になることが課題となります。

また、データ転送や保管にかかる費用、サービスプロバイダーに依存するためのライセンス料も追加されることが一般的です。

一方で、ローカルLLMを導入する際にはある程度の初期コストは発生するものの、その後の運用コストは比較的安定しています。

企業内のサーバーやインフラを活用してモデルを運用するため、外部サービスへの依存が少なく、コストを抑えながら効率的な運用が可能です。特に、中長期的な利用を想定した場合、総コストの面で大きなメリットを享受できます。

また、クラウドベースでは利用料が予測しづらい場合もありますが、ローカルLLMは企業内のリソースに依存するため、運用コストの予測も立てやすいです。

これにより、企業は予算を計画的に配分しながらAI導入を進めることが可能です。

ローカルLLMのデメリット3つ

ローカルLLMにはメリットだけでなく、デメリットももちろん存在します。

ローカルLLMがすべての企業または個人に適しているわけではないので、導入の際には以下に紹介するデメリットも把握しておきましょう。

①クラウド型と比較するとリアルタイム性・柔軟性に欠ける

1つ目のデメリットが、クラウド型LLMと比較するとリアルタイム性と柔軟性に欠けてしまう点です。

ローカルLLMは企業内のサーバーやデバイス上で動作するため、クラウド型LLMのように大規模な計算リソースを動的に利用することができません。

そのため、大量のデータをリアルタイムで処理する必要がある業務や、リクエスト量が急激に増加する状況においてパフォーマンスが低下するおそれがあります。

また、クラウド型LLMは常に最新のモデルに自動アップデートされ、新しい機能や改善が利用可能になる利点がありますが、ローカルLLMにそのような即時性はありません。

モデルをアップデートするには、再トレーニングやチューニング作業を行う必要があり、時間とコストがかかるため、クラウド型ほど柔軟には対応できないのです。

したがって、ローカルLLMはクラウド型LLMに比べて迅速かつ柔軟な対応が難しいといえます。

②導入・運用には高いレベルの専門知識が必要になる

2つ目のデメリットが、導入・運用のハードルの高さです。

先述したように、ローカルLLMを自社ビジネスに導入するためには、オープンソースのLLMを最適化して自社環境に適合させる必要があります。

この作業には、AI技術や機械学習の高度な専門知識が必要であり、社内に適切な人材がいない場合は外部の専門家やコンサルタントに依頼するほかありません。具体的には、以下のような作業が発生します。

  • モデルのファインチューニング:自社の独自データを使用して、モデルを最適化するプロセス
  • インフラ設計とセットアップ:モデルが効率的に動作するための計算環境(サーバー、ストレージ、ネットワークなど)を整備する必要がある
  • 運用中の監視とメンテナンス:モデルが継続的に高いパフォーマンスを発揮できるよう、運用状況をモニタリングし、必要に応じて再トレーニングやアップデート

これらのタスクを遂行するには、AIやデータサイエンスに関する深い理解が必要であり、一般的なITスキルだけでは対応できない場合が多いのが現状です。

また、必要なスキルセットを持つ人材は現在の日本ではまだ限られており、採用コストや育成コストがかさむ点も課題といえます。

このように、ローカルLLMの導入・運用には高い技術的ハードルが伴う点がデメリットといえるでしょう。

③高性能なハードウェアやGPUを準備する必要がある

3つ目のデメリットが、かなり高性能なハードウェアやGPUが必要になる点です。

クラウド型LLMでは、クラウドプロバイダーがすでに大規模な計算リソースを提供しているため、ユーザーは必要な処理をオンデマンドで利用できます。

一方で、ローカルLLMを導入する場合、企業は自社内で計算リソースを準備しなければなりません。特に、LLMのような大規模なモデルをトレーニングまたは推論するためには、非常に高性能なGPUや専用のハードウェアが不可欠です。

例えば、最新のGPUは高い計算能力を持つ一方で、購入コストが非常に高額であり、さらに大規模なモデルを扱う場合は複数台のGPUが必要となる場合もあります。

また、技術の進歩に伴い、数年で陳腐化するおそれもあるため、長期的に見れば定期的な更新コストも考慮しなければなりません。これらのハードウェア要件は特に中小企業にとって大きな負担となるでしょう。

関連記事:GPUとCPUの違いとは?共通点や関係性、おすすめ商品・サーバーを紹介!

ローカルLLMの活用事例3つ

ローカルLLMの登場によって、企業のAI導入のハードルは一段と下がったといえますが、具体的にどのようなビジネスに活用すればよいのでしょうか?

ここからは、ローカルLLMの活用事例を3つご紹介していきます。

①チャットボットの内製化

ローカルLLMを活用すれば、チャットボットの内製化が可能になります。

チャットボットとは、顧客や従業員からの問い合わせに対して自動的に回答するAIシステムのことです。

従来は外部サービスを利用して構築するのが一般的でしたが、ローカルLLMを活用することで、自社専用のチャットボットを構築・運用することができます。具体例は以下のとおりです。

  • カスタマーサポート:顧客サポート向けにチャットボットを内製化し、個別の契約内容や料金プランに関する問い合わせに迅速かつ正確に対応
  • 社内ヘルプデスク:IT部門が従業員の問い合わせを処理するためにチャットボットを運用
  • 人事部門サポート:従業員向けに、給与明細や福利厚生制度に関する質問に即座に回答する人事サポート用チャットボットを開発

このように、ローカルLLMを利用することで、企業独自のデータを反映した高精度なチャットボットを構築できます。

②ChatGPTよりも社内タスクに特化したAIエージェント

ローカルLLMを活用することで、ChatGPTよりも社内タスクに特化したAIエージェントを開発できます。

AIエージェントとは、2024年以降に頻繁に使われるようになった用語で、設定された目標に対して必要なデータを収集し、自律的にアクションを実行して目標を達成するプログラムのことです。

AIに質問して回答を得るだけの従来の会話型AIとは異なり、AIエージェントは具体的な行動を起こす点が特徴の一つといえます。

AIエージェントの具体的な活用事例は以下のとおりです。

  • スケジュール管理の自動化:社員のスケジュールを確認し、会議の候補日を調整して出席者に通知
  • 備品管理と発注:部署内で消耗品が不足している場合に、在庫状況をモニタリングし、必要に応じて自動で発注を行うシステム
  • 営業支援:顧客データを分析して次の訪問先やフォローアップの優先順位を提案し、関連資料を生成

AIエージェントは、業務の効率化を大きく後押しするだけでなく、社員が重要な意思決定や創造的な業務に集中できる環境をつくります。

また、ローカルLLMを活用することで、企業独自のデータや業務フローを反映したエージェントを構築できるため、他社にはないカスタマイズ性を持ったソリューションを実現できるでしょう。

③より個別化した教育用AIシステム

ローカルLLMを活用することで、より個別化した教育用AIシステムを構築することが可能です。

従来の教育ツールは、多くの場合、画一的な内容をすべての学習者に提供するものでした。

しかし、AIを活用したシステムは学習者一人ひとりの進捗や能力、興味に応じた最適な学習プランを提供できる点で大きな利点があります。以下は具体的な活用事例です。

  • 個別指導のサポート:学習者が苦手とする分野を特定し、その分野に特化した問題集や解説を自動生成
  • 企業内研修の効率化:社員が必要とするスキルに基づいた研修プログラムを自動生成し、進捗に応じてカリキュラムを調整
  • 言語学習の最適化:日本語学習者向けに、語彙や文法のレベルを調整した会話シミュレーションを作成し、個別の学習プランを提案

ローカルLLMを活用することで、学習データや進捗データを外部に送信することなく、安全かつ効率的に個別化した教育体験を実現できます。

このようなシステムは、教育機関だけでなく、企業の人材育成やスキルアップ支援にも応用できるでしょう。

【おすすめ】ローカル環境でAI処理ができるデバイス3つ

ローカルLLMを運用するには、インターネット接続なしでAI処理ができるデバイスが必須です。

ここからは、ローカル環境でAI処理ができるおすすめのデバイスを3つご紹介していきます。

①マイクロソフト Copilot+ PC

マイクロソフト Copilot+ PCは、2024年6月18日に日本国内でも発売開始された最新のパソコンです。

AI機能を搭載し、ユーザーの生産性を向上させるために設計されたこのデバイスは、以下の特徴を備えています。

1.ニューラル・プロセッシング・ユニット(NPU)を搭載

専用のNPUにより、大規模言語モデル(LLM)や画像生成AIなどの高度なAIタスクをローカルで処理可能。これにより、クラウドへの依存を排除し、高速な応答性を実現します。

2.プライバシーに配慮したAI処理

データをクラウドに送信せずにAIタスクを実行するため、セキュリティリスクを大幅に軽減。機密性の高いビジネスデータや個人情報を扱うユーザーも安心です。

3.AIモデルを簡単に利用できる

デバイス内に40以上のAIモデルがプリインストールされており、ユーザーはすぐに機能を活用できます。例えば、自然言語処理、データ分析、画像生成など多岐にわたる作業が可能です。

マイクロソフト Copilot+ PCの料金やラインナップは、こちらのリンクからご確認ください。

②NVIDIA RTX搭載 AIワークステーション

NVIDIA RTX搭載 AIワークステーション

NVIDIA RTX搭載 AIワークステーション

NVIDIA RTX搭載 AIワークステーションは、GPUの世界的リーディングカンパニーであるNVIDIA社製のGPUを搭載した、AIの開発や運用に最適なプラットフォームです。

NVIDIA RTXシリーズ(旧称:Quadroシリーズ)のGPUは、高度なAI処理やLLMの運用に最適化されており、以下のような特徴を備えています。

1.GPUオフローディングによる効率的な処理

NVIDIA RTXは、GPUオフローディング技術を活用してモデルの一部をGPUで処理します。これにより、CPUとGPUのリソースを最適化し、高速かつスムーズなAI処理を実現します。

2.LM Studioを活用できる

NVIDIAが提供する「LM Studio」を使用することで、ローカル環境でLLMを実行可能です。インターネット接続が不要なため、プライバシー保護とセキュリティが強化されています。

3.柔軟なメモリ管理

NVIDIA RTX GPUは、高速メモリと大容量のVRAMを備えており、複雑なAIモデルやデータセットの処理にも対応可能。VRAM不足時にはCPUとの分散処理も行えます。

NVIDIA RTX搭載のワークステーションは、AI研究者、クリエイター、エンジニアなど、高性能を必要とするあらゆる分野のプロフェッショナルにとって理想的な選択肢です。

関連記事:ワークステーションとは?用途別の選び方とおすすめメーカー

NVIDIA RTXシリーズのラインナップ

NVIDIA RTXシリーズのGPUは大きく分けて「GeForce RTXシリーズ」と「NVIDIA RTX(旧称:Quadro)シリーズ」の2種類です。

GeForce RTXシリーズは主にゲーミングPC用のGPUであり、ローカルLLMを運用するようなワークステーションにはNVIDIA RTXシリーズが搭載されます。

NVIDIA RTXシリーズの主なラインナップは以下のとおりです。

シリーズ モデル名 特徴
RTX Adaシリーズ RTX 6000 Ada 最高性能、Ada Lovelaceアーキテクチャ採用
RTX 5000 Ada 高性能とコストのバランスがよい
RTX 4500 Ada 汎用性の高いミドルモデル
RTX 4000 Ada 手頃な価格でプロ性能を提供
RTX 4000 SFF Ada コンパクトで省スペース設計
RTX 2000 Ada 小規模AI処理やデザイン作業に適応
RTX Aシリーズ RTX A6000 高精度計算と大容量メモリ
RTX A5000 コストパフォーマンスが高い
RTX A4000 手頃な価格で幅広い用途に対応
RTX A2000 小型ワークステーションに最適

アスクはNVIDIA社の国内正規代理店であり、RTXシリーズのGPUを幅広く取り扱っています。

スペックなどの詳細はこちらのリンクから確認できるので、NVIDIA RTXシリーズをご検討の際はぜひご活用ください。

③Lenovo AI Now対応のワークステーション

Lenovo AI Now対応のワークステーションも、ローカルLLMを運用できるワークステーションです。

Lenovo AI Nowとは、2024年11月26日に発表された、ローカル環境でAI処理を実行できるパーソナルAIエージェントです。

1.NPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)搭載

最大50TOPS(兆回の演算能力/秒)のNPUを搭載しており、大規模言語モデル(LLM)やAIタスクをローカルで迅速に処理します。

2.MetaのLlama 3ベースのAIエージェント

Metaの最新モデルであるLlama 3を基盤としており、精度の高い自然言語処理やデータ解析をローカル環境で提供します。

3.プライバシー重視の設計

データがクラウドに送信されるリスクを排除し、完全にローカル環境での処理を実現。特に、企業の機密データや個人情報を扱うユーザーに最適です。

なお、Lenovo AI Nowは2025年1月時点では、日本国内での正式なリリース日はまだ公表されていません。しかし、特定のハードウェア要件を満たす既存のレノボ製ワークステーションにインストールして利用することも可能とのことです。

Lenovoワークステーションのラインナップ

Lenovo AI Nowに対応しているLenovoワークステーションのラインナップは以下のとおりです。

モデル名 種類 主な特徴
ThinkPad P1 Gen 6 モバイルワークステーション 高性能GPU搭載、ポータブルなAI処理に最適
ThinkPad P15v Gen 3 モバイルワークステーション コストパフォーマンスに優れたモデル
ThinkStation P360 Tower デスクトップ型 高度なAI処理とグラフィックス作業に最適
ThinkPad P16s Gen 2 モバイルワークステーション 軽量で持ち運びやすく、外出先でも活躍
ThinkStation P620 デスクトップ型 ハイエンド仕様で、もっとも要求の厳しいAI処理に対応可能

アスクはLenovo社の国内正規代理店として、Lenovoワークステーションを幅広く取り扱っています。

最新機種も随時取り扱う予定なので、Lenovoワークステーションをご検討の際はこちらのリンクからお問い合わせください。

AI開発環境の構築はax社の各種ツールがおすすめ!

ローカルLLMを運用するには、AI開発環境を整えることが不可欠です。しかし、複雑な設定や開発プロセスに不安を感じる方も多いかもしれません。そこでおすすめなのが、ax社が提供している各種ツールです。

1.ailia SDK

クロスプラットフォーム対応の高速推論エンジンで、エッジデバイスやPC上で効率的にAIモデルを動作させることができます。PythonやC++など複数の開発言語に対応しており、開発の柔軟性が高いのが特徴です。

2.ailia MODELS

180種類以上の学習済みAIモデルを提供。画像分類、物体検出、骨格検知など、さまざまなタスクに即座に対応できるため、開発期間を大幅に短縮できます。

3.ailia TRAINER

独自のデータセットを使ったモデル学習を簡単に実行可能。特定の業務やニーズに合わせたAIモデルのカスタマイズが可能です。

4.ailia WORKS

AI開発プロジェクトをトータルで支援するサービス。最適なモデル選定や実装支援を受けられるため、初心者でも安心して開発を進められます。

詳細はax社の公式HPから確認できるので、ローカルLLMの導入ハードルを下げたい方はぜひご活用ください。

【まとめ】ローカルLLMを活用してDXを推進しよう!

本記事では、ローカルLLM(Local Large Language Model)について、その基本的な仕組みやクラウド型との違い、日本企業で注目される背景、メリット・デメリット、そして具体的な活用事例を詳しく解説しました。

ローカルLLMは、セキュリティ向上や独自データ活用の可能性を秘めた有力な選択肢であり、多くの企業がAI導入を検討する中で注目しています。しかし、導入には高い技術的ハードルを超えなければならず、導入したくてもできない企業も多いかもしれません。

そんなときはぜひ一度アスクにご相談ください!

株式会社アスクでは国内外のAIソリューションを豊富に取り扱っております。多くのトップ企業と正式にパートナー契約を締結しているので、信頼を重視したい企業のニーズにも対応しています。

ワンストップで個別のニーズに応じたソリューションを提案できるので、ローカルLLMの導入にお困りならこちらのリンクからぜひ一度お問い合わせください!

監修者:麻生哲

明治大学理工学部物理学科を卒業後、ITベンチャーにて多数のプロジェクトを成功に導く。子会社を立ち上げる際には責任者として一から会社を作り上げ、1年で年商1億円規模の会社へと成長させることに成功。現在は経験を活かし、フリーランスとしてコンテンツ制作・WEBデザイン・システム構築などをAIやRPAツールを活用して活動中。

※ 本記事は執筆時の情報に基づいており、販売が既に終了している製品や、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

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