製品レポート

身近なのに複雑怪奇、USB規格のおさらい【第3回】USB Type-Cケーブル編

USB Type-Cケーブルの具体的な選び方をご紹介

今回はケーブルについてもう少し深掘りする。これまでケーブルの種類や端子について紹介してきたが、具体的な製品選びに関わることをUSB Type-Cケーブルを中心に解説していく。

身近なのに複雑怪奇、USB規格のおさらい【第3回】USB Type-Cケーブル編

多様なUSB Type-Cケーブル、どう選ぶ?

安く購入できるUSB 2.0ケーブル

全ての機能に対応したUSB Type-Cケーブルを作ると、コストがかさみ高価な製品になる。しかし安く買いたいというニーズは当然存在する。そこで登場するのがUSB 2.0対応ケーブルだ。

USB 2.0のUSB Type-Cケーブルは高速データ転送用の配線を省略しているため、USB 3.xのデータ転送もAlternate Modeも利用できない。しかし、転送速度がUSB 2.0でも構わない、USB PD充電だけ利用したいといった用途ならこれで十分だろう。安価に販売されているUSB Type-Cケーブルは、基本的にこれだ。

UGREENの「30W PD 3.0 Wall Charger」

出力が60W以下なら、USB 2.0用の安価なケーブルでも利用可能。写真はUGREENの最大30WのACアダプター「30W PD 3.0 Wall Charger」。

USB PDで60Wより大きな電力を扱いたい場合は5Aケーブルが必要。こちらはUSB 2.0でも1mで1000円前後からとそれほど安くない。

また、USB Type-Cの規格では充電専用ケーブルは存在しない。通信できないケーブルは独自に通信用の配線を省略しており、規格に沿っていないということになる。USB PD以外の急速充電規格は電力の決定に通信用の信号線を使うことがあるため、充電専用ケーブルでは反対に遅くなることもある。

バージョン名で混乱しがちなUSB 3.xケーブル

最も複雑で分かりにくいのがUSB 3.xケーブルだ。先にバージョン名で整理しておこう。USB Type-CはUSB 3.1と同時期に発表されたため、厳密にはUSB 3.0 USB Type-Cケーブルは存在しない。USB 3.1ではUSB 3.0相当の5Gbpsを「Gen 1」と改称し、10Gbpsの「Gen 2」を追加した。USB 3.2では「デュアルレーンモード」が追加され、20Gbpsの「Gen 2 x2」が登場した。

問題は、どのUSB Type-Cケーブルでどの速度が利用できるかということだ。USB Type-Cの規格はUSB本体から独立しており、バージョン名とは対応していない。また前回紹介した通り、USB 3.xに対応したUSB Type-Cケーブルは「Full Featured Cable」の1種類しかない。つまり、原則としてどのケーブルでも全ての速度を利用できる。

ただし、高い転送速度に対応していないケーブルもある。ポイントはケーブルの長さ。USB 3.x Gen 1(5Gbps)はおおむね2m、Gen 2(10Gbps)とGen 2 x2(20Gbps)はおおむね1mまでとなっている。規格で厳密に決まっているわけではないが、標準的な仕様ではこの程度の長さが限界だ。またUSB 3.1時代の古いケーブルは20Gbpsなどの高速なデータ転送を想定していないため、うまく動作しないケースはありうる。

種類 最大転送速度 ケーブルの種類 長さの目安
USB 2.0 480Mbps USB 2.0 4m以下
USB 3.1 Gen 1 5Gbps Full Featured 2m以下
USB 3.1 Gen 2 10Gbps Full Featured 1m以下
USB 3.2 Gen 1 5Gbps Full Featured 2m以下
USB 3.2 Gen 2 10Gbps Full Featured 1m以下
USB 3.2 Gen 2 x2 20Gbps Full Featured 1m以下
USB4 Gen 2 x2 20Gbps Full Featured
※対応ケーブルが必要
1m以下
USB4 Gen 3 x2 40Gbps Full Featured
※対応ケーブルが必要
80cm以下

バージョン名を省略せずに表にするとこうなる。長さの目安を除くと、USB 2.0以外は同じ構造のケーブルだ。USB 3.xのケーブルは、1m以下なら基本的にどの速度でも利用できる。

こちらも標準仕様ではUSB PDの電流値は最大3Aとなっており、60Wを超える電力を扱うには5Aケーブルが必要。5A対応のケーブルはそのぶん高価だ。

ケーブルの対応が必要なThunderbolt 3とUSB4

USB4はThunderbolt 3をベースに作られた規格だ。厳密には互換性のない独立した規格であるものの、ほぼ同じものと考えて良い。USB4には「Thunderbolt 3互換モード」という動作モードがあり、USB4端子でThunderbolt 3の機器が使えるためだ。2022年5月時点でUSB4はまだ普及しているとは言い難く、USB4対応機器もまだない。

Thunderbolt 3互換モードはオプション仕様のため、将来的にはUSB4でしか利用できない周辺機器が登場する可能性もある。しかしそれまでは明確な差はないと言っても良いだろう。

Thunderbolt 3の機器はUSB4、Thunderbolt 3いずれのケーブルでも利用できる

Thunderbolt 3の機器はUSB4、Thunderbolt 3いずれのケーブルでも利用できる。現状、基本的に使い分ける必要はない。

Thunderbolt 3とUSB4は異なる規格のため、それぞれに対応ケーブルがある。しかし現状USB4ケーブルでしか使えない機器はなく、使い分けを意識する場面はほぼない。

USB4とThunderbolt 3はともに20Gbpsと40Gbpsの動作モードがある。USB 3.x同様こちらもケーブルの長さで制約があり、おおむね80cmを超えると20Gbpsまでとなる。店頭に並んでいるUSB4ケーブルのほとんどが80cm以下なのはこれが理由だ。

より長いケーブルで40Gbpsの速度を利用するには、「アクティブケーブル」という信号強度を補強する機能を備えたケーブルを使う。ただしThunderbolt 3のアクティブケーブルはUSB 3.xと互換性がなく、USB 2.0とThunderbolt 3でしか利用できないという制約がある。USB4のアクティブケーブルについては、規格は策定されているものの2022年5月時点で未登場。どれほど普及するかは未知数だ。

アクティブケーブルに対して、通常のケーブルを「パッシブケーブル」と呼ぶ。コンシューマー用途でアクティブケーブルを使う機会はほぼなく、明記されたケーブル以外はパッシブケーブルと考えてよい。

USB4とThunderbolt 3への対応はUSB Type-Cケーブルが内蔵するeMarkerの情報で識別する。Thunderbolt 3対応の周辺機器を使うにはいずれかに対応したケーブルが必要になる。例外として、ホスト(主にPC)の端子がUSB4の場合はUSB 3.x用のFull Featured cableでThunderbolt 3機器を使うことができる。もっとも速度は80cm以下でも20Gbpsに制限されるため、対応ケーブルが見つからない時の急場しのぎ以外では利用しない方がよいだろう。

Thunderbolt 3ケーブルは雷のロゴが目印

Thunderbolt 3ケーブルは雷のロゴが目印。Thunderbolt 3を示すため、ロゴの隣に「3」と表記している場合もある。

USB4ケーブルは40の数字が入ったUSBロゴがあると分かりやすい

USB4ケーブルは40の数字が入ったUSBロゴがあると分かりやすい。ただ、ロゴがないケーブルは見分けるのが困難だ。図はUSB IFのロゴ使用要件の資料より。

USB PDへの対応についてはUSB 3.xケーブルと同じで、標準は電流値が最大3A(60W)。5Aに対応するケーブルなら最大100Wまで利用可能だ。

最も安心なThunderbolt 4ケーブル

何にでも使えるケーブルがほしい場合は、Thunderbolt 4ケーブルを選ぶとよい。現状、購入できるほぼ全ての機器で全ての機能を利用できる。

Thunderbolt 4の主だった仕様はUSB4と同じ。というのも、Thunderbolt 4はUSB4の最低要件を引き上げて認証を必須にした規格だからだ。USB4自体がThunderbolt 3の技術を取り込んだ規格なので、事実上Thunderbolt 4は同3のリフレッシュ版と言ってよいだろう。

ケーブルそのものはFull Featured cableで、ピンや内部配線が増えたわけではない。しかし最低要件が高い分ケーブルに求められるノイズ対策等のスペックも高くなる。そのためThunderbolt 4ケーブルが最も互換性の高いUSB Type-Cケーブルとなる。

Thunderbolt 4は「ユニバーサルケーブル」を採用しており、アクティブケーブルとパッシブケーブルの区別をなくしているのも特徴。Thunderbolt 4ケーブルは最大2mで40Gbpsの速度を利用可能だ。長いケーブルの実態はアクティブケーブルなのだが、Thunderbolt 3ケーブルとは異なり、USB 3.xとの互換性を保っている。制約がなくなっているため、違いを意識する必要がないというわけだ。その代わり、アクティブケーブルなので価格は高い。

Thunderbolt 4ケーブルはほとんどの機能に対応した万能ケーブル

Thunderbolt 4ケーブルはほとんどの機能に対応した万能ケーブル。端子に雷のロゴと4の数字があれば安心だ。その代わり価格は高め。

Thunderbolt 4はUSB4と実質的に同じもの

Thunderbolt 4はUSB4と実質的に同じもの。そのためThunderbolt 4端子は「Thunderbolt4/USB4端子」と表記されることも多い。写真はASRockの「Z690 AQUA OC」。

Thunderbolt 4はUSB PDも5A(100W)へ対応することが基本となっており、3A(60W)ケーブルはない。この点も安心だ。

ケーブルの種類まとめ

USB Type-Cケーブルだけでたくさんある

ここまで見てきたように、USB Type-Cケーブルは見た目がほとんど同じにも関わらず種類が多い。以下がまとめた表だ。

種類 最大転送速度 ケーブルの種類 長さの目安 備考
USB 2.0 480Mbps USB 2.0 4m以下
USB 3.1 Gen 1 5Gbps Full Featured 2m以下
USB 3.1 Gen 2 10Gbps Full Featured 1m以下
USB 3.2 Gen 1 5Gbps Full Featured 2m以下
USB 3.2 Gen 2 10Gbps Full Featured 1m以下
USB 3.2 Gen 2 x2 20Gbps Full Featured 1m以下 USB Type-Cのみ
USB4 Gen 2 x2 20Gbps Full Featured 1m以下 要対応、USB Type-Cのみ
USB4 Gen 3 x2 40Gbps Full Featured 80cm以下 要対応、USB Type-Cのみ
Thunderbolt 3
パッシブケーブル
40Gbps Full Featured 80cm以下 要対応、USB Type-Cのみ
Thunderbolt 3
アクティブケーブル
40Gbps Full Featured 80cm以上 要対応、USB Type-Cのみ
Thunderbolt 4 40Gbps Full Featured 2m以下 要対応、USB Type-Cのみ

速度がケーブルの長さによって影響されるようになってからは、5Gbpsが2m、10Gbpsが1mというように、速度と長さが対応するようになっているのが分かる。Thunderbolt 4ケーブル以外はUSB PDの3A/5A対応があるため、種類はこの約2倍になる。

用途に合わせてケーブル選び

USB Type-Cケーブルは製品によって価格の幅が広い。ケーブル選びの際は、用途に合わせて選ぶと良いだろう。スマートフォンの急速充電で利用したいだけであればフルスペックのケーブルは不要なため、USB 2.0のケーブルで十分。USB 3.xの10Gbpsや20Gbpsを利用するのであれば短いケーブルを選べばよい。あれこれ悩みたくなければThunderbolt 4ケーブルがお薦めだ。ただしThunderbolt接続の機器を利用しないのであれば、Full Featuredの5A対応、1m以下のケーブルがあれば困ることはないはずだ。

USBは複雑なのに使いやすい、不思議な規格

規格を意識しなくても使えるのが魅力

ここまでUSBのさまざまな仕様を見てきた。あえて触れなかった仕様も多いが、それでも非常に複雑だということが分かったと思う。しかしUSBの真の魅力は、細かな仕様が分からなくても使えるという点だ。

始めに触れたように、USBは後方互換性が非常に優れている。高速なデータ転送速度が利用できない場合は速度を落として動作するという原則があり、バージョンが違うから動かないということはほぼない。USB PDやAlternate Modeなど付帯的な機能は利用するのに条件があるものの、USBのデータ通信ができないという状況は非常にまれ。この「つないだらとりあえず使える」という使い勝手のよさが他のインターフェースを廃れさせ、一人勝ちとも言える状態を生んだと言える。

一方で、詳しく知れば知るほど正しい製品選びができる、調べがいがある点もユニークだ。使えるがゆえに本来の速度が出ていないことに気付いていないというケースもあるため、一度PCと周辺機器の環境を見直してみるのも良いかもしれない。

(文・写真=SPOOL

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