PCを自作する上で避けて通れないパーツのグラフィックボード。コンシューマー向けのGeForceシリーズの他に、NVIDIA RTXシリーズとQuadroシリーズがあることを知っている人は多いだろう。しかし、NVIDIA RTX/Quadroシリーズがどこで使われているかは知らないという人もいるのではないだろうか。この記事では両者の違いについて解説し、どんな人にNVIDIA RTX/Quadroシリーズがお薦めなのかを紹介する。
目次
GeForceシリーズとは用途が異なる
主にゲームとクリエイティブ業務
まず両シリーズの特徴を簡単に紹介しよう。GeForceシリーズは誰もが知っている通り、ゲーム向けという位置付けだ。グラフィックボードはもともと3Dゲームのために進化してきたため、やはり根本にはゲームがある。NVIDIAはチップを提供し、基本的にサードパーティーのボードメーカーが製品化する点も特徴だ。
一方、NVIDIA RTX/Quadroシリーズは主に業務向けで使われる。3Dモデルの制作や3D CGのレンダリング、設計ソフトのCAD、動画編集、イラスト制作といったクリエイティブ分野の作業が主な用途で、企業やプロが導入するケースが多い。
従来はQuadroシリーズとして展開していたが、最新世代はNVIDIA RTXシリーズという名称になっている。両シリーズはNVIDIAがグラフィックボードそのものも生産しており、サードパーティー製ボードはない。安定して動作することが重視されるため、品質をコントロールしやすい方法を取っているためだ。
ボードの製品価格には大きな違いがあり、GeFroceシリーズは最上位モデルでも20万円前後なのに対し、NVIDIA RTX/Quadroシリーズのハイエンドモデルは80万~90万円程度と非常に高価だ。
ハードウェアのベースはほぼ同じ
同じ世代では同じアーキテクチャーを採用
では両者がまったく異なる製品かと言うと、ベースとなるチップは同じという場合も多い。例えば、GeForce RTX 3090とNVIDIA RTX A6000は同じAmpereアーキテクチャーを採用したGA102というチップを使用している。
ただし、下の表のように仕様は異なる。GA102の本来の仕様では、CUDAコアは1万752個搭載している。しかし、NVIDIA RTX A6000は1万752個だがGeForce RTX 3090は1万496個。これはGeForce RTX 3090がGA102の一部を無効にしたチップだからだ。同様のことはGeForce RTX 3080でも行われており、こちらは8704個なのでさらに多くのCUDAコアが無効になっている。ラインアップを増やすと共に歩留まり(生産効率)を上げるための施策だ。
また、NVIDIA RTX/QuadroシリーズはGeFroceシリーズと比べて大容量のメモリーを搭載している。これも想定する用途の違いによるものだ。
製品名 | NVIDIA RTX A6000 | GeForce RTX 3090 |
---|---|---|
チップ名 | GA102 | |
CUDAコア数 | 10,752個 | 10,496個 |
ブーストクロック | 1.8GHz | 1.695GHz |
メモリ容量 | GDDR6X 48GB | GDDR6X 24GB |
バス幅 | 384bit | |
データレート | 16Gbps | 19.5Gbps |
バンド幅 | 768GB/s | 936GB/s |
GeForce RTX 3090とNVIDIA RTX A6000は同じGA102というチップを搭載している。ただしNVIDIA RTX A6000の方が有効なCUDAコアの数が多く、メモリーの容量も大きい。一方でメモリーの速度はGeForce RTX 3090の方が高い。
デバイスドライバーで区別
同じチップがベースということはチップ本来の機能は同じで、GeForce RTX 3090とNVIDIA RTX A6000の仕様は似ている。対応するAPIも基本的に同じだ。しかし両者は全く異なる製品群に属している。
ではどこが違うかのと言うと、デバイスドライバー(以下、ドライバー)とソフトのサポートだ。ドライバーは用途に合わせてアップデートを重ねていくため、得意な分野が分かれる。
GeForceシリーズのドライバーはゲームのサポートが重要なため、注目タイトルではゲームメーカーと協力して最適化する。ドライバーのアップデートで特定のタイトルの不具合が修正される場合もある。NVIDIA RTX/Quadroシリーズはゲーム用途を想定していないため、こうした細かなアップデートは適用されない。そのためNVIDIA RTX/Quadroシリーズではゲームが正常に動作しない、パフォーマンスが出ないといったことが起こる可能性がある。
一方、NVIDIA RTX/Quadroシリーズが得意な分野では、業務向けソフトのメーカーと協力して最適化を進めている。そうしたソフトの対応GPUリストにはGeForceシリーズが含まれないことも多い。理屈の上ではGeForceシリーズでも動作するはずだが、安定性がNVIDIA RTX/Quadroシリーズと比べて低くなる。ゲームとは反対に、GeForceシリーズのドライバーには業務向けソフトのフィードバックが反映されないためだ。
デバイスドライバーのリリースノートの一部。左のGeForceシリーズは「Doom Eternal」や「League of Ledgends」などゲームに関する修正、右のNVIDIA RTX/Quadroシリーズは「Photoshop CC」や「VRED」などクリエイティブ業務ソフトに関する修正が並んでいる。
ただし、GeForceシリーズでクリエイティブ業務向けのソフトを使うというニーズもあり、NVIDIAは「Studioドライバー」を提供している。こちらはゲームよりもこうしたソフトへの最適化を重視しており、例えば動画編集なら動作の安定化や書き出しの高速化などのメリットが得られる。一部の対応ソフトはNVIDIA RTX/Quadroシリーズと重なるが、「AutoCAD」のようにGeForceシリーズには対応していないソフトもある。
Studioドライバーに対して、従来のゲーム向けドライバーは「Game Readyドライバー」という名称になっている。
NVIDIA RTX/Quadroならではの機能も
GeForceでは不可能な大規模マルチディスプレイが可能
NVIDIA RTX/Quadroシリーズにしか利用できない機能もある。例えば「NVIDIA Mosaic」だ。これは複数のディスプレイを並べて1つの大型ディスプレイとして扱う機能で、最大16台のディスプレイを同期できる。各ディスプレイのリフレッシュタイミングをそろえる、ディスプレイ間の隙間で生じるズレを補正して正確に表示するといった機能も備えている。拡張ボードの「NVIDIA Quadro Sync 2」を併用すると、PCをまたいで最大32台を同期するといったこともできる。
GeForceシリーズでもマルチディスプレイ環境を作ることは可能だが、ここまで大規模にはできない。こうした点もNVIDIA RTX/Quadroシリーズの強みだ。
「NVIDIAモザイク」を利用すると、複数のディスプレイを1枚の画面として利用できる。全画面表示の設定をするとディスプレイをまたいで全体に表示可能だ。この時発生する見え方の違和感をなくす機能も備えている。
コンテンツを作るのはNVIDIA RTX/Quadro、楽しむのはGeForce
得意分野に合わせて使うのが良い
両者の用途は重なる部分もあるが、おおまかに区別するなら、NVIDIA RTX/Quadroシリーズはコンテンツのクリエイター、GeForceシリーズはユーザー向けと言えるだろう。最適化の度合いを無視すれば、本来の用途に合わない使い方もできる。しかし、それぞれに得意な分野があるため、合わせて使い分けるのが良い。
特にNVIDIA RTX/Quadroシリーズが指定されるようなソフトは業務、仕事で使うことが多い。業務用途では安定して動作することが何にも代えがたいメリットとなる。ボード単体だけでなく、細かなサポートをより受けやすくなるシステム一式での導入も選択肢の一つだ。
(文・写真=SPOOL)
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