電源ユニットは製品選びが悩ましいPCパーツだ。PCの性能には影響を与えないが、電源ユニットが不調だったり出力が足りていなかったりすれば、PCそのものが不安定になる。一方、正常に動作している間はその恩恵を実感するのは難しい。
そんな電源ユニットだが、他のPCパーツの進化と共に新しい機能や仕様が追加されており、その時々のトレンドも存在する。今回は2024年のトレンドを含めた製品選びのポイント、そして実際の製品として、Cooler Masterの主力製品を紹介しよう。
目次
製品選びのポイントは5つ
他のパーツに合わせて選ぶ
電源ユニットを選ぶ際に確認すべきポイントは、大きく分けて容量、本体サイズ、ケーブル(端子)の数、冷却ファン、変換効率の5つだ。順番に見ていこう。
①容量
電源ユニットは各PCパーツが使用する電力を供給するパーツだ。電圧は主に3.3V、5V、12Vを出力する。それぞれに最大出力が設定されているが、一般的に電源ユニットの容量と呼ばれるのは画像の一番下にある「850W」の数値だ。
電源ユニットの容量とは、定格出力、つまり最大何Wまで一度に出力できるかという数値だ。一般的にどのメーカーも若干のマージンを設けているため、容量を超えた瞬間にPCの電源が落ちるということはなく、あくまで安定して継続的に出力できる電力の目安となる。
必要となる容量はPCによってまちまちだが、おおまかにミドルクラスのパーツを中心に使うなら650~750W、ハイエンドクラスのパーツを使うなら850~1000Wを選ぶとよい。1000Wを超えるモデルが必要になる構成は、ハイエンドのグラフィックボードを複数枚使う場合など限定的だ。
電源ユニットは各PCパーツが使用する電力を供給するパーツだ。電圧は主に3.3V、5V、12Vを出力する。それぞれに最大出力が設定されているが、一般的に電源ユニットの容量と呼ばれるのは画像の一番下にある「850W」の数値だ。
②本体サイズ
自作PCで使う電源ユニットの規格は主にATXとSFXの2種類だ。これらは本体サイズが大きく異なる。それぞれの規格に対応する電源ユニットをATX電源、SFX電源と呼ぶ。
ATX電源の標準サイズは幅150×奥行き140×高さ86mmだ。しかし奥行きは規格通りでなくても取り付けられるため、より短い製品も長い製品もある。
以前は1000Wクラスの製品は奥行き180mm以上と本体サイズも大きいものばかりだったが、現在は140~160mmとあまり大きくないモデルが増えている。
SFX電源には本体サイズにバリエーションがある。自作PCで主に利用されるのは幅125×奥行き100×高さ63mmの規格だ。ATX電源同様、奥行きを長くしたモデルも存在する。ただしSFX電源は小型PCで利用されるため、少しでもサイズが変わると収められなくなってしまうこともある。そのため、奥行きを少し伸ばした製品はSFX-Lと呼び分けている。
③ケーブル(端子)の数
当たり前だが、電力を供給するためには電源ユニットと各パーツをケーブルで接続する必要がある。ここで確認するのは、十分な数の端子が備わっているかどうかだ。例えば、グラフィックボードに電源端子が3個あるのに電源ユニットには2個しかない場合、そのままではPCを動かせないということになる。
端子の数が足りていても、ケーブルが短くて届かないといったトラブルもありうる。本体サイズが小さい製品はケーブルが短め、反対に大きい製品はケーブルも長めの傾向があるため、ここも確認しておくとよい。
ケーブルは本体に直付けの場合と着脱式(モジュラー方式)の場合がある。全てのケーブルが着脱可能な場合はフルモジュラーと呼ぶことが多い。
12VHPWRという、新しいグラフィックボード用の電源端子もある。NVIDIAの「GeForce RTX 40」シリーズを搭載したグラフィックボードが採用しており、ケーブル1本で最大600Wの電力供給に対応する。従来の8(6+2)ピンのケーブルが1本あたり最大150Wなので、配線時に使うケーブルの数を減らせる。ただし大きな電力を扱うためケーブルが太く、取り回しがしにくい場合もある。そこでL字型端子を採用する製品もある。今回紹介する「V SFX Platinum 1100W」、「GX II Gold 850」、「GX III Gold 850W ATX 3.0」の3機種もそうだ。
新しいグラフィックボード用の12VHPWR端子。PCI Express電源端子よりピン数が多い12ピンとなっており、1個の端子で大きな電力を扱える。ケーブルの取り回しがしやすいL字型端子を採用したモデルもある。
④冷却ファン
電源ユニットはコンセントから供給された交流電流をPCパーツが利用可能な直流電流に変換する。その際の変換ロスが熱になるため、電源ユニットは発熱しやすいPCパーツだ。そこで電源ユニットはほとんどの製品がファンを内蔵して冷却している。ただ、ここで注目するのはファンの冷却能力ではなく、動作音(ノイズ)だ。
ファンの動作音はファンの径が小さいほど高音、大きいほど低音が目立つ傾向がある。また径が大きい方が冷却能力を高めやすく、その分回転数を落とすことで静音化しやすい。電源ユニットは主に90~140mmファンを採用しているため、参考にするとよいだろう。
電源ユニットのファンの回転数は一定ではなく、内部の温度や負荷の大きさに応じて変化するのが一般的だ。静音性を重視する場合は、低温時、低負荷時にファンを停止するセミファンレスの製品を選ぶとよい。
⑤変換効率
先述の通り、電源ユニットの役割は交流電流を直流電流に変換すること。どれだけ効率よく変換できるかを示す指標が変換効率だ。ただ、変換効率は使用する環境によって変化するため、スペックとして表示しにくい。そこで各メーカーは認証制度を利用している。
最も有名な認証制度はCLEAResultの提供する「80 PLUS」。上から「80 PLUS Titanium」「80 PLUS Platinum」「80 PLUS Gold」「80 PLUS Silver」「80 PLUS Bronze」「80 PLUS Standard」の6段階があり、上位の認証を取得しているほど高い変換効率を備えていることになる。変換効率が高いと発熱も抑えられるため、静音化にも有利になる。
変換効率が低いと同じ電力を使うためにより多くの電力をコンセントから供給する必要があり、電気の使用量が増えてしまう。つまり変換効率が高いと電気料金を抑えられるというメリットもある。ただし変換効率の高い電源ユニットは高価なことが多いため、トータルコストで有利になるとは限らない。
Cooler Masterの電源ユニットのラインアップ
2シリーズ、4製品を紹介
ここからはCooler Masterの実際の製品を見ていこう。同社はターゲットごとにセグメントを分け、それぞれにシリーズ名を付けている。今回紹介するのは「Vシリーズ」と「GX」シリーズだ。
「Vシリーズ」はクリエイター向けをうたい、ハイパフォーマンスを特徴としている。一方、「GXシリーズ」はゲーマー向けとしており、安定性やエネルギー効率、静音性などが特徴だ。
Windows上で使用状況を確認(Vシリーズ)
V850 Gold i Multi
製品名 | V850 Gold i Multi |
最大出力 | 850W |
電源規格 | ATX 3.0 |
PFC | Active PFC |
搭載ファン | 135mmファン×1 |
80PLUS | 80 PLUS Gold |
入力電流 | 6~12A |
出力 | +3.3V:20A +5V:20A +12V:70.8A -12V:0.3A +5VSB:3A |
コネクタ | 24ピン メインコネクタ×1 4+4ピン ATX12Vコネクタ×1 8ピン EPS12Vコネクタ×1 16ピン 12VHPWRコネクタ×1 6+2ピン PCI-Eコネクタ×3 15ピン SATAコネクタ×12 4ピン ペリフェラルコネクタ×4 USBコネクタ×1 |
保護装置 | OPP、OVP、OCP、UVP、SCP、OTP、Surge Protection、Inrush Protection |
安全規格 | UL、TUV、CE、FCC、BSMI、CCC、KC、KCC、EAC、BIS、UKCA、RoHS2.0 |
本体サイズ | 150(W)×86(H)×160(D) mm |
重量 | 約1.22kg |
保証期間 | 10年 |
型番 | MPZ-8501-AFAG-BJP |
カスタマイズに対応
「V850 Gold i Multi」は「Vシリーズ」に属する電源ユニットで、ATX 3.0規格に対応し、「80 PLUS Gold」認証を取得している。全てのケーブルを着脱可能なフルモジュラー方式で、最大450W対応の12VHPWRケーブルも付属。直径135mmの大型ファンを搭載し、冷却面でも優れている。
大きな特徴となるのがコントロール機能だ。電源ユニット本体とマザーボードをUSBケーブルで接続し、「Masterplus+」アプリを利用することで、Windows上で電源ユニットの使用状況の監視ができる。各電圧で使用中の電力や、内部温度、ファンの回転数などを表示できる。ファンカーブをカスタマイズすることで、冷却性能と静音性のバランスを変化させることもできる。
ケーブルはメイン24ピン×1、CPU用12V×2、12VHPWR×1、PCI Express用6+2ピン×3、SATA×3、ペリフェラル×1。このほか、ACケーブル×1、USBケーブル×1と結束バンド、面ファスナーが付属する。
「DeFine 7」(Fractal Design)に取り付けたところ。参考のためメイン24ピンと12VHPWRケーブルを取り付けている(以下同)。奥行きが160mmのため、ドライブベイとの間に余裕がある。
SFX電源で1000Wオーバーの大容量(Vシリーズ)
V SFX Platinum 1100W
製品名 | V SFX Platinum 1100W |
最大出力 | 1100W |
フォームファクター | SFX |
電源規格 | ATX 3.0、SFX12V v3.42 |
PFC | Active PFC |
搭載ファン | 92mmファン×1 |
80PLUS | 80PLUS PLATINUM |
入力電圧 | 100~240V |
入力周波数範囲 | 50~60Hz |
入力電流 | 6.5~14A |
出力 | +3.3V:20A +5V:20A +12V:91.6A -12V:0.3A +5VSB:3A |
コネクタ | 24ピン メインコネクタ×1 4+4ピン EPS12Vコネクタ×1 8ピン EPS12Vコネクタ×1 12+4ピン 12VHPWRコネクタ×1 6+2ピン PCI-Eコネクタ×3 15ピン SATAコネクタ×8 4ピン ペリフェラルコネクタ×4 |
保護装置 | OVP、OPP、SCP、OCP、UVP、OTP、Surge and Inrush Protection |
安全規格 | TUV、cTUVus、CE、FCC、BSMI、CCC、EAC、UKCA |
本体サイズ | 125(W)×63.5(H)×100(D) mm |
重量 | 約1.22kg |
保証期間 | 10年 |
型番 | MPZ-B001-SFAP-BJP |
小型、高性能PCを構築可能
「V SFX Platinum 1100W」は小型のSFX電源で、1100Wの容量を備える。本体サイズは大きく異なるが、「V850 Gold i Multi」と同じ「Vシリーズ」だ。同社によると、SFX-LではなくSFXの本体サイズで1000Wオーバーの電源ユニットは本シリーズが世界初だという。変換効率も高く、「80 PLUS Platinum」認証を取得している。ATX 3.0に対応し、最大600Wの12VHPWRケーブルが付属。ハイエンドグラフィックボードも利用可能だ。
ねじ穴の位置をATX電源に合わせるためのプレートが付属しており、SFX電源に対応していないMini-ITXケースやスリムケースなどにも取り付けられる。
SFX電源は小型PCケースで使うため、余ったケーブルの収納場所を確保しにくい。そのため使わないケーブルを外しておけるモジュラー方式は使いやすい。ただ、端子のぶんだけ実質的な奥行きが長くなるため、タイトな設計のPCケースでは注意が必要だ。
ケーブルはメイン24ピン×1、CPU用12V×2、12VHPWR×1、PCI Express用6+2ピン×3、SATA×2、ペリフェラル×1。このほか、ACケーブル×1、結束バンド、面ファスナーが付属する。小型PCケースに合わせて付属ケーブルは短く、メイン24ピンケーブルの長さは300mmと「V850 Gold i Multi」の650mmと比べると半分以下だ。
ZERO-RPMモードで低負荷時にほぼ無音(GXシリーズ)
GX II Gold 850
製品名 | GX II Gold 850 |
最大出力 | 850W |
フォームファクター | ATX |
電源規格 | ATX12V v3.0 |
PFC | Active PFC |
搭載ファン | 120mmファン×1 |
80PLUS | 80 PLUS Gold |
入力電圧 | 100~240V |
入力周波数範囲 | 50~60Hz |
入力電流 | 5~10A |
出力 | +3.3V:20A +5V:20A +12V:70.8A -12V:0.3A +5VSB:3A |
コネクタ | 24ピン メインコネクタ×1 4+4ピン EPS12Vコネクタ×1 8ピン EPS12Vコネクタ×1 12+4ピン 12VHPWRコネクタ×1 6+2ピン PCI-Eコネクタ×4 15ピン SATAコネクタ×6 4ピン ペリフェラルコネクタ×2 |
保護装置 | OPP、OVP、OTP、OCP、SCP、UVP、Surge and Inrush Protection |
安全規格 | cTUVus、TUV、CE、FCC、BSMI、CCC、EAC、RCM、UKCA、RoHS2.0、BIS、KC |
本体サイズ | 150(W)×86(H)×160(D) mm |
重量 | 約2.56kg |
保証期間 | 10年 |
型番 | MPX-8503-AFAG-2BJP |
低負荷時の変換効率も高い
「GX II Gold 850」は「GXシリーズ」に属し、ATX 3.0規格の対応と、「80 PLUS Gold」認証を取得したフルモジュラー方式のATX電源だ。低負荷時の変換効率が高く、10~20%の負荷では「80 PLUS Titanium」並みの高効率になるという。変換効率の高さから、40%以下の負荷ではファンを停止するZERO-RPMモードを搭載している。
ペリフェラル端子はSATA端子のケーブルに混載するタイプ。SATA端子を3個とペリフェラル端子を1個備えたケーブルが2本付属する。ペリフェラル端子は使う機会が減っているが、1個だけ必要な場合などにはこの方式の方が便利だ。
ケーブルはメイン24ピン×1、CPU用12V×2、12VHPWR×1、PCI Express用6+2ピン×2、SATA/ペリフェラル×2。このほか、ACケーブル×1が付属する。ケーブルを全てつなぐとSATA/ペリフェラル用の端子が1個余る。結束バンドや使わなかったケーブルを入れておくポーチは付属しない。
Cybeneticsの認証も取得(GXシリーズ)
GX III Gold 850W ATX 3.0
製品名 | GX III Gold 850W ATX 3.0 |
最大出力 | 850W |
フォームファクター | ATX |
電源規格 | ATX12V v3.0 |
PFC | Active PFC |
搭載ファン | 135mmファン×1 |
80PLUS | 80 PLUS Gold |
入力電圧 | 100~240V |
入力周波数範囲 | 50~60Hz |
入力電流 | 5~10A |
出力 | +3.3V:20A +5V:20A +12V:70.8A -12V:0.3A +5VSB:3A |
コネクタ | 24ピン メインコネクタ×1 4+4ピン EPS12Vコネクタ×1 8ピン EPS12Vコネクタ×1 12+4ピン 12VHPWRコネクタ×1 6+2ピン PCI-Eコネクタ×3 15ピン SATAコネクタ×8 4ピン ペリフェラルコネクタ×4 |
保護装置 | OPP、OVP、OTP、OCP、SCP、UVP、Surge and Inrush Protection |
安全規格 | cTUVus、TUV、CE、FCC、BSMI、CCC、EAC、RCM、UKCA、RoHS2.0、BIS、KC |
本体サイズ | 150(W)×86(H)×160(D) mm |
重量 | 約2.61kg |
保証期間 | 10年 |
型番 | MPX-8503-AFAG-BJP |
「GX II Gold」シリーズのブラッシュアップモデル
「GX III Gold 850W ATX 3.0」も「GXシリーズ」に属し、最新のATX 3.0規格に対応した電源ユニットだ。基本的な設計は「GX II Gold」シリーズに近く、ケーブルのフルモジュラー方式や低負荷時の変換効率の高さ、ZERO-RPMモードは受け継いでいる。
見た目で分かりやすい変更点としては、ファンカバーの給気口をさらに広くし、ファン自体も120mmから135mmに大型化した。「80 PLUS Gold」の他にCybeneticsの提供する認証も受けているのも特徴だ。変換効率を示す「ETA」テストは「Platinum」、ノイズテストの「LAMBDA」では「A」の認証を取得している。
ケーブル構成も強化されている。PCI Express用のケーブルが1本増え、同じケーブルにまとめられていたSATA端子とペリフェラル端子が、ケーブルごとに端子を分ける形になった。また、内部のヒートシンクに陽極酸化コーティングを施しているのも特徴。従来のヒートシンクよりも部品の温度を平均5度下げられ、製品の耐久性も向上するとしている。
ケーブルはメイン24ピン×1、CPU用12V×2、12VHPWR×1、PCI Express用6+2ピン×2、SATA×2、ペリフェラル×1。このほか、ACケーブル×1が付属する。ケーブルを収納する袋が付属するのも強化ポイントだ。
使いやすい大容量、静音モデルが増えた
ハイエンドPCも組みやすい
ここ数年の電源ユニットのトレンドは、通常サイズの大容量モデルだ。以前は大容量モデルを小型化するのが難しく、奥行きが180mmを超える大型の製品が多かった。しかし2024年4月現在では1000Wクラスでも奥行き140~160mmの製品が登場している。今回紹介した製品も、ATXモデルはミドルタワーケースで使いやすい奥行き160mmを採用している。大型PCケースを使わなくともハイエンド構成のPCを組みやすくなっていると言えるだろう。
(文・写真=SPOOL)
※ 本記事は執筆時の情報に基づいており、販売が既に終了している製品や、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。